伏せたままアフリクシオンに麻酔弾を込めて音をできるだけ消すために布を被せながら、出かけに子供達が歌っていた歌を口ずさむ。
『アヤ部長、』
「しー…今はアーニャか、薄雪花(エーデルワイス)と」
『はっ、失礼しました』
「それで、なにか?」
無線のヘッドフォン越しに聞こえる声に短く返しながら、角に見える敵を狙いをつけた。
『今の歌は』
「子供達が出がけに歌いながら遊んでたんですよ。本部の狙撃兵『薄雪花』と同じ名前の歌、だそうです」
あの子たちは正体を知らないから、と言葉を切って麻酔弾を遥か下の敵に撃ち込み、眠らせる。
「情報伝達部長『白鳩』の話もせがんでくるから、ちょっと大変ですね…E地点終了。進んでください」
『子供達や世間は別人だと思ってますからね…部長も薄雪花も、白鳩も…捕縛は』
「その方が全ての仕事をしやすいですけどね…今はバロックワークスの勧誘現場を押さえるのが先です。捕縛はあとで構いません」
『了解』
ぷちん、と通信が切れる音を聞いて移動しようとした時、背後から現れた気配に振り向く。
目深に被った外套のフードの下から見つめれば、見覚えがある。
「海賊狩りのロロノア・ゾロさんですか…」
「こんな小柄な女だとは思わなかったが…さっきの狙撃はあんたか。いい腕してんな」
「(冷静に…)何故海賊狩りの貴方がここに…それに、よく私のことを見つけましたね」
「いや、全部たまたまさ。違う島に行く予定だったがこの島に着いて、港に歩いてきたつもりがなぜかビルの屋上にいた」
「?……もしかして迷って、」
「迷ってねェ」
言い終わる前に遮られたけれど、絶対迷ったんだと思うと、笑い声が漏れてしまった。
「笑うなッ!!違うって言ってんだろ!!」
「うふふ…分かりました。因みに港はここからずっと西…左ですよ」
「…お前海軍だろ。わざわざ逃げる経路を教えていいのか?」
「…私の今の仕事は別件ですし、私では貴方を捕縛できるとは思いません。それに貴方は別に民間人を手に掛ける悪逆の徒ではありませんから」
今回は互いに見なかったことにと申し出れば、少しの沈黙の後にわかったと頷かれた。
信用して貰えたらしい。良かった。
「また会う時は敵だろうが…お前、名前は」
「…薄雪花、と」
「それは通り名だろ」
「次にお会いする機会があれば、教えますよ」
私はややこしいのです、と肩をすくめれば仕方ねェなと笑われた。
エーデルワイス
(それじゃあ港は左だったな)
(ゾロさん、そちらは右です)
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