「先日も面倒だったろうに、ダンスパウダーの件などで忙しい時期に連日いくつも仕事をさせて悪いな」
「いえ、構いません」
「アヤは働きすぎだよ。俺と休みもらってデートいかない?」
「アヤはともかくお前に休みなんか与えるわけないじゃろうが、少しは真面目に働けェ」
「アヤちゃんをデートに誘う前にたまりにたまった書類とデートしてこいよォ〜」
「貴様ら三人は一旦黙れ」
「あはは…」
24歳になった日も通り過ぎ、七武海さんとの会議も先日終えたばかり。
会議でとんでもない事態を経験したけれど、今日の仕事に励んでいたら、いきなりセンゴクさんに呼び出された。
なんだろうと思いつつ来たら大将お三方もいて今に至る。
「アヤ…先日も予期せず会うことになったが、フルールというあの娘についてだ」
「!フルールさんについて、ですか…?」
「ああ…ドフラミンゴの気色悪い発言を聞かされたあとに思い出させるのは忍びないが…」
フルールさん。
1人の少女の名前に、苦い思いをした数年前の記憶と同時に、先日の会議での事件が浮き上がってくる。
ドフラミンゴさんが先日フルールさんを連れてきて、婚約すると宣言したのです。
もちろん、その場の全員一瞬にして言葉を失いました。
クロコダイルさんに至っては、完全に蔑みの目をしていました。
けれど、言って満足したドフラミンゴさんがフルールさんを連れ帰ったはずですが…なにかあったのでしょうか?
「…実はな、あの娘に賞金を賭けろと上が言ってきた」
「賞金…!?何故ですか?」
私が驚く中、皆さんは至って冷静だった。
「…あの小娘、ドフラミンゴのやつから逃げでもしたんですかい?」
「ああ…そのようだ。特例ではあるが、生け捕りのみで億越えの賞金をつけて、探し出し保護しろとのことだ…」
「相当婚約が嫌だったんでしょうよォ〜…しっかし…逃げた観葉植物を探すのまで、こっちの仕事にまわして欲しくねェんですけどねェ〜」
「上が言ってきてるんだ。断れん…それにお前たちはわかってるだろう。あの娘の中に流れる血の恐ろしさを」
「…確かに。あの一族の血は、そうそう世に出していい存在ではないですけどね…」
「待ってください…!どういうことですか?」
「あー…アヤはそうか、まだ知らなかったね」
クザンさんがしゃがみ込んで、そっと私をなだめるように頭を撫でてくる。
「フロアレ族っていう種族がいたのは、知ってるでしょ?」
「あ…はい…おとぎ話や政府の資料に…」
花と歌を愛する、花のように儚い命を持った世にも美しい見目をした女系一族のフロアレ族。
その美しさは男の人を惑わして狂わせたり死なせてしまうほどで、それが危険視され迫害されたことで絶滅寸前までなった伝説の種族。
見分けるのは種族内の似通った美しすぎる顔立ちと、首裏の花の痣。
「あの子ね、その種族の子なのよ」
「え…ふえっ!?」
「顔形、人形みたいに綺麗だったでしょォ〜?」
言われてみたら、無表情ではあったけれど
確かにフルールさんは、この世のものとは思えないくらい綺麗な顔だった。
「フルールさんが、フロアレ族…」
「…じゃけェお前が、あの時に救おうとする必要はなかったんじゃ…奴らはその存在だけで周りを惑わす害悪。
毒の華から生まれるのは所詮、毒の華にしかなれん…あの娘はそれじゃァ」
「…私には、そんな風には見えませんでした」
艶やかすぎる毒花に例えるには、あの子は素朴で儚すぎると思う。
「そんな風に見えないのがね、あの種族の怖いところなんだよ」
「…でも、」
「アヤちゃんまで惑わされちまったらいけねェよォ〜…?もしあの娘がその気がなくても、見た奴が狂っちまったら民間に被害がでるんだからねェ〜?」
「…」
ぐっと言葉が出なくなる。
護るべきものを、私は海兵として選ばねばならない。
どうしても私はここに立つ限り、あの子を完全に救うことはできないようです。
「アヤ…やるべき仕事を、もう何も言わずともやれるな?」
「…了解しました。早急に新しい手配書の用意と、新聞社の各社に急遽、手配書の挟み込みを要求します」
私はもう、子供のように選択を迷うことはできません。
時間も世界も、いつも不自由で私の選択を待ってはくれないことを知ってしまったから。
けれど、全てに慈愛を傾けることも私の正義。
だから、完全な貴女の味方にもなれないけれど、貴女の命を蔑ろにもしない。
「(どうか、私達に見つからないでください…)」
手配書
(アヤちゃんも大人になったねェ〜)
(甘いのは相変わらずじゃが、成長はしとるようじゃな)
(…もう来て、10年くらい経つしね)
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