「キャプテン・クロの処刑はとこどおりなく終了しましたか…はい、わかりました。上にはそう連絡しておきます」


メモをとりつつ受話器を置く。


「……はあ…」


処刑報告を聞くと、いくら悪い海賊さんでもやっぱり気分が落ち込んでしまう。

人が死ぬということは、殺すということは、やっぱり重い。


「…(どんな仄暗いことに手を染めても…慣れませんね、この感じだけは)」


震えだしそうな手を握りしめ耐えると、部屋の戸が開く音。


「アヤ、帰ったぞ」

「ああ…ご苦労様です、ジャスミンちゃん」


先ほどのメモをさりげなく伏せて、仕事を頼んで遠征に行ってもらっていたジャスミンちゃんを笑顔で出迎える。


「遠出を頼んで申し訳ありません。普段なら私が行くんですが…アラバスタはどうでした?」

「いい国だったが…街の奴らの話によれば、どうも雨が最近降ってねェらしい」

「雨が?」

「ああ…だが不可思議なことに首都のアルバーナだけは、変わらず普通に降ってるそうだ」

「……なら他の地域の水事情は、」

「当然いくつかの街が枯れだしてた」


言わずとも調べてくれたらしい、ジャスミンちゃんの容量の良さに感服しつつも、事の不可解さに、少し頭をひねる。

砂漠の国アラバスタにおいて、雨や水は命を繋ぐ財産。

もしいざこざがおこれば、国を揺るがしかねない。

しかも全体に降らないならただの自然現象で済むかもしれないけれど、アルバーナだけには降るという不思議な事態。


「(…アルバーナはネフェルタリ王家の王宮がある街…あの国の王族の方に限ってやましいことなどないと思いますが……ひっかかりますし、上に調査要請をだしますか…)」

「…アヤ?」

「ああ、すいません。ジャスミンちゃん、ご苦労様です。もう今日は休んでくださってかまいませんよ」

「いいのか?」

「ええ…あ、でも孤児院の子たちが寂しがっていましたから、余力があれば少し顔を見せてあげてくださいな」

「…わかった。じゃあお疲れさん。細かい報告はまた書類にまとめて提出する」

「はい、お願いします」


出ていくジャスミンちゃんの背中を見送ってから、海軍の内線用の電伝虫をとり、センゴクさんへと電話をかける。

不自然な雨の降り方。過去のファイルの中でみた事例が頭をよぎる。

もし、もしも雨が何者かによって人為的に操作されているのだとしたら…


『どうしたアヤ、なにかあったか?』

「元帥、アラバスタの監査結果を受けまして気になることがあったので、追加で調査員を出したいのですが…」

『気になること?』

「…もしかしたら、ダンスパウダーの不正使用がなされている可能性があります」

『!?なんだと…』

「確証はまだありませんが、不可解な点がいくつもありまして…たしかアラバスタにはサー・クロコダイルさんがいらしたので、とりあえず私は彼に連絡を入れてみようと思います」

『…わかった。調査の方はアヤ、お前に一任しよう。十分に気をつけろ』

「了解しました。ありがとうございます…では」


内線用の受話器を置いて、今度は隣にある外部用の電伝虫の受話器をとる。

そして次にかける先は…


『…これはこれは…電伝虫を俺にかけてくるとは珍しいじゃねェか…アヤ情報伝達部長殿』

「…クロコダイルさん、お久しぶりです。少しお聞きしたいことがありましてご連絡させていただきました」

『…アラバスタに最近雨が降ってねェって話か?』

「…ええ、そのとおりです。なにか、おかしなことはありませんか?」

『さあなァ…雨が降らなくなったおかげで俺は快適に過ごしているがね』

「……」


とらえがたい回答に、緊張から汗が伝う。駆け引きは向いてないから、胃がキリキリしてくる。


『クハハ…なんて言うのは冗談だが…なにかわかれば連絡してやるよ』

「…随分と、協力的ですね?」

『これでも今は、アラバスタの英雄なもんでね…それにこの国の風土は身体に馴染んで嫌いじゃねェ』

「…そうですか。では、なにか情報があればご連絡お待ちしています。いきなり申し訳ありませんでした」


受話器を置いた瞬間、緊張感から開放されたせいかどっと疲れる。

これは時間がかかりそうだ。


「…とりあえず、調査開始…ですね」



陰日向で動く

(事件が事件を呼ぶ前に、なんとか突き止めたいけれど)

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