「オーディヌ・フギン、退院オメデトウ」

「ありがとうございます…ご迷惑、おかけしました」

「ほんとにのう…アヤたん、後は任せてええか?」

「はい、大丈夫です」

「…ええかフギン、お前トチ狂っても二度と可愛い可愛いアヤたんに傷を負わすなよ」

「…勿論…二度としません」

「ふふ、それじゃあ行きましょうかフギン君」


真っ白い病室から青空の下へと手を引いて連れ出す。

海の匂いのする風が、マリンフォードを吹き抜けていく。


「…綺麗な街ですね」

「でしょう?いい街ですよ。孤児院の子たちもね、とてもいい子たちですからきっとフギン君も仲良くなれます」

「…そうですか……アヤ、さん」

「はい?」


ぎゅう、と握る手に力がこめられたのを感じて振り返れば真剣な目。


「……俺は、貴女に助けられたの感謝しています…恩を、お返ししたい」

「恩なんて…そんなのいいんですよ」

「よくない…俺は、救われたのに…」

「…なら、恩返し代わりに、貴方が思うように自由に生きてください」


そっともう片方の手で、繋いだ手を包むように握る。


「貴方は縛られてきた…だから、その背中に刻まれた刻印にもう縛られないように、自分で考え、決断し、自分の思うままに生きてください」


私の連れていく場所は、そういう場所なのですから。

そう言えば、フギン君は少しだけ眉を潜めて困ったような顔をした。


「…俺は、貴女や…あのサカズキさんの役に立ちたい…けど、世界政府や貴族は憎い…だから悩んでいる」

「…私のためとか、考えてくれるのはありがたいです。でも、貴方の人生は貴方のもので、悩んで決断するのも貴方でなくてはなりません。

だから、私には貴方がこれから自分で人生を決めていける環境を提供するのです」


今すぐに決めなくていい。だからそこで色んなものと触れて、ゆっくりと人生の航路を考えてください。

そう言い聞かせれば、フギン君は悩む素振りを見せつつ小さく頷いた。

どうやらこの子は堅く考えすぎてしまうフシがあるようですね…気をつけてあげないと。


「…さ、気を取直して行きましょうフギン君。みんなお待ちかねですよ」

「…はい、先生」



獣から人へ

(という訳でミンツェ君、今日から相部屋になるオーディヌ・フギン君です)
(…よろしく頼む)
((で、でかいッス…))

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