「ん…?なんだ情報伝達部のアヤ部長ちゃんじゃねぇか…」
「へへ、夢も希望もない俺たちにもあんたの愛とやらをくれよォ…」
檻越しに伸びてくる囚人さんちの手に困って笑い返すと、マゼランさんが私を制した。
「アヤ、構う必要はない」
「マゼランさん…」
「Level.6の監査を早く終わらせよう」
「…はい」
そして地獄と呼ぶに相応しい階をいくつも通りながら看守さん達に挨拶をし、下へと進んでいき、Level.6へ。
「アヤ、毎度言うがこの階は危険だ。毎回のことだが俺から離れないでくれ」
「わかりました、マゼランさん」
頷いてただただ、静けさと退屈が支配する階へ足を踏み入れる。
そろそろと周りの牢屋を見れば、中には書類で見た大物の方ばかりがおられ、何度か来ているとは言え、息を呑む。
「(…やっぱりここは緊張する…)」
「おい、部長殿…また来たのか」
「!…シリュウさん…」
低い声音に、思わずぴっと背筋を伸ばし、そちらを見る。
「シリュウ貴様…」
「マゼラン、そんな怖い顔すんじゃあねェよ…俺の薄情な妻がどうしてるか聞きてェだけさ」
「カンパニュラさんなら…その…お変わりなく過ごしてらっしゃいますよ…」
「…相変わらず冷てェ女だなァ。俺は離婚を承諾した覚えはねェと伝えといてくれよ部長殿」
「は、はい…承りました…」
こくこくと頷くと、シリュウさんはもう話すことはないと言うように視線を私から外した。
シリュウさんは政略結婚でカンパニュラさんと夫婦だったそうだが
シリュウさんがインペルダウンの囚人になってからカンパニュラさんが一方的に別れを切り出したと聞いている。
シリュウさんは、それが気に食わないらしい。
…進展があればいいな…。
シリュウさんのいる牢屋の前を離れ、歩き出す。
「…アヤ、すまないな。あの二人の伝書鳩のような真似をさせて」
「いえ、いいんですよ。情報や連絡を人から人へ運ぶのも私の仕事なんですから」
申し訳なさそうなマゼランさんに笑い返し、Level.6を後にした。
密かな離婚調停
(アヤちゃん?あんな男の言葉なんかわざわざ監獄から持って来なくていいのよォ)
(でも…)
(もうあれと私はなんの関係もないんだからァ〜)
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