「アヤ、会いたかったアマス」

「はっ…お久しぶりですシャルリア宮様」


片膝をついて、深く頭を下げる。

天竜人であるシャルリア宮様は、私を気に入ってくださっていて、こうして今回のように私事で呼ばれることがある。

お茶や戯れに付き合うだけとはいえ、緊張感に胃がいつもキリキリしてしまう。

顔を伏せていると、シャルリア宮様の指先が私の顎を持ち上げた。


「可愛いアヤ、いつになったら海兵を辞めて私の観賞魚になるアマスか?」

「それは…私には決められないことなので…」


毎回の質問に眉を下げて答えれば、不満気な顔をされた。


「広い水槽で、綺麗な鎖に繋いで飼ってあげますのに…」

「…ふふ、ありがとうございます…」


当たり前のように言われる言葉が恐ろしくてたまらない。

ぞくりと鳥肌が立つのを隠しながら微笑み返せば、少し気を良くしたらしいシャルリア宮様が

膝をついたままの私を立ち上がらせた。


「他の奴隷もアヤみたいに従順ならいいアマス…今の奴隷は最悪」

「…(また新しい方を…)」

「だから始末しようと思ってたアマス。けど、お父様に壊しすぎだと怒られましたの…」


そこで言葉を切って、シャルリア宮様は後ろに控えていたお役人さんに目線を向ける。

すると綺麗すぎるほど綺麗な部屋には異質な、あちこちの肉が裂けた血まみれの少年が引きずられてきた。

ほとんど生きているのかさえ怪しい姿でしたが、片方だけ開いている金色の目だけはこちらを睨んで深い負の感情を燃やしていました。

唇がわななくのと、駆け寄りたいのをぐっと堪える。


「お前らは…絶対に殺す!!よくもムニンを…!!」

「セット売りだった弱いメスの方を殺してから、虫の息でもうるさいアマス…」

「…シャルリア宮様…なぜ私の前に…」

「アヤにあれをあげたら、お父様も新しいのを買ってくださると思いますの」


だから、おさがりだけれど貰って欲しいアマス。

そうにっこりと相変わらず当たり前のことを言ったと言わんばかりに笑うシャルリア宮様にカッとなりかけたのを抑えて、もう一度少年を見た。

傷を負った猛獣のような目。

ほうっておくわけにはいきませんね…


「…わかりました。お引き取りします…そこの方、彼を丁重に船にいるタンレイ医師のところへ運んでください。私もすぐに行きますので」

「わかりました」


指示を出してからシャルリア宮様に向き直り、席を立たせて貰おうと口を開こうとすれば、がしっと手を掴まれた。


「アヤ、さあ水槽に入ってヒレを見せるアマス」

「しゃ、シャルリア宮様…しかしあのもらい受けた子が…」

「あんな壊れかけのものの方が私の相手より重要アマスか?」

「……ええ、重要です…貴女から頂いた子なのですから」


偽りをまるで本心のように口にして笑えばまた少し不服そうにしたので

失礼、と一言口にして、水差しの水をブーツを脱いだ自らの足にばしゃりとかけた。

光って浮き上がってくる鱗を数枚だけ無理矢理剥がして小瓶の中に入れ、シャルリア宮様に渡す。


「…不躾のお詫びには足りないでしょうが、この鱗でどうか心をお慰めください」

「…仕方ないアマス。次はないアマスよ」


シャルリア宮様が、前々から私の鱗を欲しがっていたからうまく行った。

はがした部分がひりひりするけれど、背に腹は変えられない。

一礼をして脱いだブーツを片手に部屋を出て、軍艦を泊めてある場所に走り出す。


「(タンたんさんなら心配いらないでしょうけど…!)」



奴隷

(タンたんさん!)
(!アヤたん…!そんなに息を荒く…じゃない!息を切らしてどうしたんじゃ?!しかも足から血が…!!)
(それよりもさっき先に送らせた子は!?)
(さっきの子供なら大丈夫じゃ…今看護師たちに処置をやらせとるけェ…じゃからアヤたんも落ち着け…な?)

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