「…で、あの子が連絡で言ってたジャスミンちゃん?」

「はい…」


本部に帰還した私は、ジャスミンさんをある一室に通すとその部屋に設置してある

監視用の映像電伝虫からの映像を見るためモニタールームへ向かった。

そこには既に連絡を入れておいたためか、硬い顔をした上層部の皆さんがいた。


「まさかこうもすぐ漏れた可能性があるとはな…」

「申し訳ありませんセンゴクさん…」

「でもどうしようかねェ〜…」

「…不用意に口にする子ではないと思うので、このまま賞金を渡して帰ってもらっても大丈夫だと思うんですが…」

「甘いぞアヤ」


これ以上巻き込まないようにとの思いを込めて進言すれば厳しい声。

見上げれば、厳しい赤犬さんの瞳。


「もしも漏れたらどうする?おどれの身に余計な危険が及ぶかもしれんのじゃぞ

…『硝子細工の人魚』として生まれてきたという時点で、おどれは人より多くのリスクを背負っていることを忘れるな」

「っ…でも…」


厳しく強い言葉は正しくて、私の頭ではうまい言い訳なんか思いつかなくて、眉を下げることしかできない。


「…(若芽は消すに限るが)」

「(それ言ったら嫌われるよォ〜)」

「…ならさあ、海軍にあの子引き入れちゃえば?」

「え…」


沈黙を割くようにして、クザンさんが気だるそうに頭を掻きながらひとつの提案をした。

その提案は私には望ましくないもので、また少し眉を潜めると、しゃがんで宥めるようにそっと頭を撫でらてきた。


「実力はあるみたいだし…このまま返すわけにもいかないしさ、アヤの部下って形で海軍に置いといたら監視もできるし…それなら文句ないんじゃない?」

「わっしは決定したことに従うよォ〜」

「…ふん…」


お三方の言葉に、思わず顔を伏せる。


「でも…あの子は商船に乗っているらしいですから無理矢理は…」

「そこは理解して妥協してもらうよ。彼女も命の方が、惜しいでしょ」

「っ……わかり、ました…」


何度も聞かされてきた言い聞かせる言葉に逆らうだけの言葉は持てなくて、ぐっと口を噤んで頷いた。


「いい子…それじゃああの子のことは後はおれたに任せて休んでいいよ、アヤは」

「え、…」

「わっしらが信用できないかァい?」

「そ、そういうわけじゃ…」


ボルサリーノさんの言葉に、真意を隠すように言葉を濁す。


「じゃあ後は任せてねェ〜」

「…はい…」


少しだけ任せることを不安に思ってしまう自分に憂鬱になりながら、信じようとモニタールームを後にした。


「クザン…お前は甘っちょろいのう」

「…消すのは簡単だけど、やっぱりさ。アヤって変なとこ勘がいいから…あのジャスミンって子消して気づかれたら精神的に限界でしょ」

「まあ確かにねェ〜…アヤちゃんはちょっとばかしィアホの子だけど、知恵なしって訳じゃねェからなァ〜」

「…お前たち3人にアヤのことは一任してあるが…私情でやりすぎるなよ」

「…わかってますよ。政府に引き渡す日まで、壊さないようにでしょ、センゴクさん」

「…わかっているならいい」


***


「…それじゃあジャスミンさん。本当に今日からよろしくお願いしますね…」

「ああ、大将たちから聞いたよ」

「…そうですか」


後日、私の部下として加わったジャスミンさんに内心申し訳なくなりながら微笑んだ。

皆さんとジャスミンさんの間にどんなやり取りがあったかは私は知らない。

けれど、きっとクリアな話ではなかったでしょう。


「…(ごめんなさい、ジャスミンさん)」


せめて、政府の深部の闇には触れさせないように仕事を振りましょう。



民間からの登用

(そういえばジャスミンさんは年下ですよね?…ジャスミンちゃんでもいいですか?)
(え…ああ…(あんた年上だったのかとか色々つっこみたいとこだが…とりあえず、俺は男なんだが別にいいか))

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