「ママ先生いっちゃやだー!うわああん!」
「ヘルメス!ママ先生を困らせないの!みんなそんなこと言わないようにしてるのに!!」
「だってぇー!!」
「あらあら…ヘルメス君、私は数日で帰ってきますから。キールお姉ちゃんたちと一緒に待っててくださいね」
今日から視察のため、しっかりしたキールちゃんや親切なファナさんに子供たちを頼み家を後にしようとしたら
泣き出したヘルメス君が後ろから腰に巻いたコートをひっぱってきて、それを見てキールちゃんが怒った。
二人の愛らしい姿に行くのをやめてしまいたくなるけれど、職務をまっとうしなくてはと二人を抱きしめて頭を撫でる。
「早く帰ってきてね…?」
「勿論です。行って来ますね」
にっこりと笑って二人のおでこにキスをしてから家を出て、視察先の支部へ向かった。
***
「…?」
視察に訪れた支部の外が、俄かに騒がしい。
なにかあったのでしょうか?
気になって外に出てみると、一般兵さん達が誰かと揉めていた。
「あの、どうなさったんですか?」
「!アヤ部長!お騒がせして申し訳ありません!!」
「いえ、かまいませんが…」
「部長だァ?お前らよりお偉いさんがきたなら丁度いいな」
「アヤ部長とお前のような怪しい奴を、話などさせられるか!」
「お前らに聞いてねーんだよ!」
「貴様…」
「おやめなさい!」
あまり聞いていたくない荒い言い合いに、少しいつもより強めに止めに入れば海兵さんたちは少し驚いた顔でこちらを振り向いた。
「…人に対して、そのような物言いはいかがなものでしょう。
私は、私にお話がある方ならばどなたであろうとお聞きますよ。お通ししてあげてください」
「しかし…」
「…命令です、と言ってもですか?」
「ッ……わかりました…」
海兵さんたちが道を空けてくれた先にいたのは、黒髪の綺麗な女の子。
口調から男の子だと思ったんですけど、違ったらしくて恥ずかしいです。
「…あんたは話わかるみてーだな(なんか見たことある顔だな…)」
「申し訳ありません。それで、海軍へのご用件は?」
「実はこの賞金首を狩ってきたんだが……本当にやったのか疑われて支払いを渋られた」
目の前に引き摺り出されてきた、気絶した賞金首の海賊さんの顔をチェックすれば、間違いなく中々の額の方だった。
「まあ…こちらの海賊さんを貴女が?」
「問題あんのか」
「いえ、お強い方だなと…ましてや生け捕りにしてくるなんて…ご協力感謝します。皆さん、賞金をお支払いしてあげてください。この海賊さんは3100万ベリーですから」
海兵さんたちに指示を伝えれば、了解と返ってきたので後は任せても大丈夫だろうと黒髪の女の子に一礼して去ろうとした時、あ、と短い声が聞こえた。
「?なにか」
「誰かに似てると思ったら…お前人魚じゃ」
「!」
飛び出してきた思わぬ単語に、考えるより早くブーツの仕掛けのローラーを起動させ、気を抜いている女の子の腕を引っつかんで支部の中に走り込み、近くの部屋に引き摺り込んだ。
「うわっ、と!なにすんだ!!」
「何故私が人魚だと!?」
「え、あんたやっぱ人魚なのか?前見た人魚そっくりで…」
「ッ…!」
前に見た?
私にそっくりな人魚?それはお母さんしかいないはず…
だとしたら、私がどこかで見られていたの?
「(だとしたら、いけない)……貴女、」
「アヤ部長!少しよろしいですか?」
「!…どうしましたか?」
こんこんと外から扉が叩かれる音と呼びかけにハッとする。
落ち着かないと…まだ自分の人生に巻き込んだと決まったわけじゃないんですから。
「賞金なのですが…今のこの支部では払い切れませんで…本部に行きませんと」
「本部に……わかりました。では、私が一緒にこちらの方を連れて本部に戻りますので、艦の用意をお願いできますか?」
「了解!」
足音が消えていくのを聞きながら、女の子を見る。
「…というわけなので、少し海軍本部にご一緒願いますね…ええと、」
「ジャスミンだ…あんた支部のやつじゃなかったのか…普通の海兵、じゃないよな」
「…ジャスミンさん、色々と申し訳ありません。私はショウガン・アヤ。私の詳細は少々機密に値しますので…過敏に」
「(面倒なとこに触れちまったか…)」
「…えっと…あの、面倒をかけて申し訳ありません。お支払いの方は必ずしますから。一緒に…」
「どうせ海軍お得意の、拒否権はない、だろう?」
「……すみません」
皮肉げな言葉に反論もできず、苦く笑うことしかできませんでした。
黒髪の子
(巻き込まずに済みますように)
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