「…ふう、マゼランさん。今回の視察はこれで終了ですが…お世話をかけました」
「いえ、こちらこそいつもご足労頂き、感謝する」
定期的に行う収監された囚人たちの確認という仕事を終え、インペルダウンの入り口で敬礼をして見上げれば、同じように敬礼を返してくれた。
「それに…この新人が迷惑をかけた」
「えーだって署長が教えてくんないから、遊んでくれる人かと思ったんだもーん」
「…お前が聞いてなかったか忘れてるだけだ。俺は再三言ったぞ、エリス」
マゼランさんのうしろから両の拳を振り上げてでてきた、片目のない若い看守の女性、アッフェル・エリスさんが不服そうに反論する。
「まじですかー??ぷぅー」
「とりあえずお前は謝罪をしろ。アヤ部長になにかあれば首が飛ぶだけではすまん」
「はいはーい。アヤ部長さっきはごめんネー。囚人相手に遊んでばっかりだから、たまには身なりいい人とやりたくてぇー」
「…エリス」
「ま、マゼランさんそんなに気になさらないでも私は大丈夫ですから…エリスさんも悪気があったわけじゃありませんし」
「やーんアヤ部長やっさしー!話わかるぅーって、いたあ!!」
「しっかり敬え馬鹿者!」
「うぇぇ、いいじゃないですかぁ〜許してくれたんですから〜」
軽くはたかれたエリスさんは私の後ろに小さくなって隠れて不満を漏らす。
「態度の問題だ」
「署長ったらお固いのー。そんなんだからモテないんですよ」
「黙れ」
「…ふふ」
憎まれ口の応酬を見て、世界一の大監獄とは思えない微笑ましさにひとしきりなごんでから、インペルダウンを後にした。
***
「…あら?」
「……」
本部に帰りつきセンゴクさんに報告しようと執務室に向かうと、見慣れた方々が集まっていて
大きなソファにちょこんと簡易な服を着たじと目の女の子が座っていた。
「アヤ……(やばい)」
「まあかわいい子…この子は一体?」
「え、ああー…その…」
「クザンの隠し子だよォ〜」
「隠し子?…つまりクザンさんの娘さんですか?」
「…まあ、うん…そうみたい」
「そうみたいって…」
「………」
じとりと半目のダークブルーの瞳が私を見てくる。
身長はクザンさんに似たのか私より少し低いくらいだけど、私より随分幼そう。
「………お姉さんが、ママが言ってたどろぼうねこ?」
「!?」
「ど、どろぼ…?」
「なにを言うちょるんじゃァ小娘!」
「…だって…ママがずっと言ってたから。他の女にパパをとられたから、パパが帰ってこないって」
でもママはちょっと思い込み激しくて、おかしかったから。
「…違うなら、ごめんなさい…」
淡々とした口調で私に頭を下げてくる女の子に、なんとなく近づいて頭を撫でたらぴくりと肩を跳ねさせたのが見えた。
人を警戒している。
痩せた体つきや、簡素な格好から、あまり面倒を見られてこなかったのがわかる。
「謝らないでくださいな、怒ってませんから…それより、お名前は?」
「…コルク」
無愛想な、とサカズキさんのぼやきが聞こえたけれど、会話をしてくれる気があることだけで十分です。
「コルクちゃんですか…お一人でパパさんのところに?」
「はい…軍艦に忍び込んで」
「まあ…すごいですね。大変だったでしょう?」
お腹は空いてませんか?と声をかければ、空いた、と小さな返事。それを聞いて微笑んで、罰が悪そうなクザンさん達を振り返る。
「ちょっと私は彼女にご飯を作ってきますから赤犬さん、ボルサリーノさんもこちらに…クザンさん、コルクちゃんをお願いします」
「え、ちょ、アヤ…」
「経緯はしりませんが、どうであれ貴方はお父さんなんですから、コルクちゃんと今後のことを考える義務があります」
うだうだしないで、私たちがご飯を作ってる間にコルクちゃんとお話を。
そういえばクザンさんが仕方なさそうに頷いた。
「センゴクさんも、クザンさんとコルクちゃんをお願いします」
「ああ…わかった」
その返事を聞いて、サカズキさんとボルサリーノと一緒に執務室を出た。
「まったくクザンの奴…」
「クザンさん…ご結婚なさってたんですか?」
「あー…違うよォ〜アヤちゃん」
「え、じゃあどうやって…」
「……アヤ、おどれは子供はどうしてできるとおもっちょるんじゃ」
「?ご夫婦のもとに天使様がきて、赤ちゃんをさずけてくださるんですよね」
「…………(冗談じゃろ)」
「あ〜………うんうん、アヤちゃんらしいねェ」
「?」
お二人の反応に首を傾げながらも、促されるままに食堂に向かって歩いていった。
雉の不祥事
(…で、おどれ結局どうするんじゃあ)
(…俺が引き取ることにしました)
(いさぎいいねェ…)
(ほっとくわけにいかないでしょ)
(…スープおいしい)
(うふふ、ならよかったです)
(ありがとう……ママ)
(!)
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