「院の中の壁は何色がいいでしょう?キールちゃんはどう思います?」

「…アヤさんの好きな色でいいんじゃないですか?」


ショウガン・アヤさん。

私や他の孤児になった子を海兵さんたちの街、マリンフォードに連れてきた人。

ちゃんと暮らせるように手配してくれてる人。

わざわざ前に住んでいた部屋も引き払って、孤児院ができるまでの間私たちと住めるように広い部屋を借りた人。

正直、なんで出会ったばかりの私たちにそこまでするのかわからない。

申し出を受けたのはこっちだけど…すごく変な人だと思う。


「(…いくら海兵さんだからって…普通ここまでしたりしない……なに考えてるんだろう)」

「……そんなに不思議そうな顔しないでくださいな、怪しい者ではありませんから」


……顔に出ちゃっていたらしい。

苦笑しながら言われて、ごめんなさいと返せば頭をなでられる。


「気にしてませんよ。変な人同然なのは確かですからね」

「…怒らないんですか?」

「怒ることじゃありませんから」


柔らかく微笑む姿は、どことなくいつも優しかったママに似ていて、なんだかすごく悪いことをした気分。


「……」

「キールちゃんはいいこですね。でも、気にされるより、笑っていてくださる方が、私は嬉しいですよ」

「…」


どうしてこんなにこの人は優しいのかな。

優しくて優しくて、溶けそうなくらい柔らかい。

春の昼下がりや、陽だまりみたい。


「…さて、そろそろクッキーが焼けた頃ですね…さあ、キールちゃん。ヘルメス君たちも呼んできてくださいな。おやつは皆で食べた方が楽しいですからね」

「……うん…ママ先生」

「!」


この人に出会えたのは、救って貰えたのは、幸運なのかもしれない。



踏み出した

(ママ先生なんて呼ばれ方、なんだか新鮮)
(どうか少しでも、この子たちの未来への選択肢を増やせますように)

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