「お名前は、タレイア・キールちゃん…でしたね」
「…はい」
「これから養育してくれるような、ご親戚とかはいらっしゃいますか?」
「…いいえ…」
「…そうですか…」
再び目覚めた少女、キールちゃんに簡単な自己紹介をしてから、二人きりにしてもらい、ゆっくりと必要な質問を重ねていく。
私を見る仄暗い瞳に、なんとなく気持ちがわかる。
「…どうせならご両親と一緒に、死んでしまいたかったですか?」
「!…」
「…その気持ちは、人よりわかるつもりですから」
ハッとした表情のキールちゃんの濃い桃色の髪を撫でて、小さく笑って見せる。
「でも貴女のご両親は、貴女に生きて欲しいと願いました」
だから貴女は、まだここで生きている。
「悲しいこの過去は、生きている限り消えることはありません。でも生きていたら、未来は何か幸せに変えれるかもしれません」
「…」
「どう生きるか、どう死ぬか…これからを決めるのは貴女です」
貴女一人しか救えなかった私に怒るのも自由。
生きることを諦めるのも自由。
「…でももし、まだ生きたいと少しでも思うなら、私ときて、がんばってみませんか?」
どうか、貴女が自分の未来を決められるまでの助けをしたい。
そう言えば、彼女はまた目を丸くしたあと、その瞳を涙でゆがませて、抱きついてきた。
胸元に顔を埋めてしゃくりあげるキールちゃんの頭を、ただ静かになでた。
***
「(…とは言ったものの…大変な計画になりそう)」
「アヤちゃん、簡単にあんなこと言っちゃいけねェよォ」
「ボルサリーノさん…聞いてらしたんですか」
落ちついたキールちゃんの病室から出たら、壁によりかかるボルサリーノさんがいた。
「全くゥ〜…今回ので孤児になったのはあの子だけじゃないんだよォ?
親だけ投げ出された子も、あの子みたいな子もいる」
「わかってます…だから、それぞれ了承してくれたら子供たち全員ちゃんと引き取ります」
「引き取るってェ〜アヤちゃん…」
「しばらくは私が今より広い家で預かって…同時進行でマリンフォードに孤児院を作ろうかと」
「!…孤児院…?」
「はい…前から考えてたんですが、なにぶん私も未成年でしたし…言い出すきっかけもありませんでしたから言わなかったんですが…」
海賊やら、戦争やらで親を亡くして泣いてる子を見るたびに考えてはいた。
身寄りのない子のための制度が、この世界には充実していないことが気がかりだった。
だから、この手を差し伸べられる日が来るならと。
私が始めようとしていることは偽善かもしれないし、ただの自己満足なのかもしれない。
でも、この気持ちが誰かの助けになるかもしれないなら。
「親がいない、寄る辺のない悲しみと寂しさは知っているから…少しでもそういう気持ちに寄り添いたいんです」
「……それはアヤちゃんも、やっぱりさみしかったからァ?」
「…そうかもしれませんね」
「……しょうがないねェ…とりあえず上に掛け合ってみなァ」
「ありがとうございます、ボルサリーノさん」
「アヤちゃんはこういう時、頑固だからねェ」
どうしようもねェや、と撫でてくれる指先に目を細めた。
新たなる挑戦は
(というわけで、私に孤児院をやらせてくださいセンゴクさん!)
(…ボルサリーノ、おまえがいながらなぜ止めなかった)
(アヤちゃん勝手にやるって言うもんで)
(仕事に支障はきたしません…私の自費で始めますし、もうマリンフォードの空いてた土地買いました。大工の手配もしてます)
(……はあ…わかった、やってみなさい)
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