人が騒いでいるだろう港では、私の姿は目につきすぎる。

そう思い、港の外れから荒れる暗い海中に飛び込んだ。


「(この島の連絡船の航路はあっちかしら…)」


シケのせいでお魚さんたちも隠れてしまった海の中を泳いで行く。

すると、暗い中に複数の黒い人影がゆらめいたのが見えて、慌ててそちらに向かってひれを動かした。


***


真っ黒な人影は三人親子だった。

夫婦寄り添いながら気絶しているらしい幼い子を海面にあげて、もがいている。


「大丈夫ですか!?」


声を掛けると、夫婦は人魚の私の姿を見て少し怯えた。

でも海軍だと叫べば、抱いていた子供の体を私に押し付けた。


「海兵さん私たちはいいからキールを!」

「その子だけでも、助け…ッ!」

「!」


ざぶん、と大波が目の前で夫婦を飲み込んだ。

探すために下に潜りたくとも、腕の中の少女を抱えたまま潜ることはできず、顔だけを海中に入れてみるも流されたのか姿が見えない。


「!…(どうしましょう…このまま戻るわけには…!)」

「っ、まま…さ、むぃ…」

「!…(仕方…ありませんね…)」


桃色の少女の震えたか細いうわ言を聞いて、早く戻らないとこの子も危ないと唇を噛んで

抱えたまま仰向けになり、その子を抱えて島に向けて泳いだ。


***


温かい。

冷たい海に落ちたはずなのに。

そっと目を開けたら、真っ白い天井が見えた。


「…ここ、は…」

「おやァ〜気がついたかァい?」

「!ふわっ!?」


物凄く背が高い黄色いおじさんが覗きこんできた。

なんだろう。笑顔なのに、緊張する。


「…そのコート…海軍の人?」

「そうだよォ」

「おじさんが、助けてくれたの…?」

「いいや、わっしじゃなくて若い同僚の子がねェ…もうすぐ戻ってくると思うよォ」

「……パパとママは?」

「…それを聞くかい〜?」


苦笑するおじさんの言葉の意味がなんとなくわかって、視界がゆがんでいく。


「っ、ふぇ…」

「おォ〜…お嬢ちゃん泣くんじゃねェよォ」


大きな、少しかさかさした手が私の頭を撫でた。

低めの体温に、ますます悲しくなってくる。


「ぱぱぁ…ままぁ…わああぁぁん」

「(普通の反応なんだけどもォ…困ったねェ…)」

「うぇえん…!!」

「…よしよォ〜し…あァもう好きなだけ泣きなァ〜」


黄色いおじさんに抱っこされて、背中をとんとんされながら、私は疲れてまた眠ってしまうまで泣いた。



海難救助

(ボルサリーノさんお任せしてすみま…!まあ、抱っこなんてどうしたんですか?)
(あァ〜アヤちゃん…この子が起きちゃってねェ…両親のこと伝えたら泣いちゃってェ…)
(…そうでしたか…)
(ところで他の被害者は見つかったかい?)
(…いいえ。もうだいぶ遠くに身体も流されてしまったのではないかと…)

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