もらったピンヒールブーツを履くようになってから、足の負担が減った。
ぴったりと足に吸い付くようにフィットして、とても動きやすい。
靴底は現場でも使えるよう海楼石が仕込んであるし
いまだ中途半端にしかできない剃や月歩といった、六式の足技の代わりとなるような機能もつけてあった。
よく私の身体能力レベルを見てくれたブーツ。
あの人には感謝しなくては。
「すごいですよねー。ここの踵のとこ、なんで二股に分かれてるのかと思ったら
踵を二回連続で鳴らすと、小さいホイールが出てきてローラースケートみたくなるんですー」
「…本当に任務で使って危なくないんか?その靴は」
「?はい。勿論!耐久性もばっちりです」
「…ならいいが…なにかあればすぐ履き替えるんじゃぞ」
渋い顔で靴の質問をしてきた赤犬さんに、靴の良さを説明すると
いまだ渋い顔をしながらも遠征にこの靴で行くのを納得してくれたようだった。
「怪我はするなよ…なにかあったらボルサリーノを使え」
「大丈夫ですよ。次行くのは比較的平和な場所なんですから」
***
ああ言って出てきたのに、任務地に嵐がきてしまった。
海は暴風雨の中で荒れ、しばらくは島から帰れそうにない。
「…また赤犬さんが心配しそうですね」
「仕方ないよォ〜…グランドラインの天気はどうなるかわからないからねェ」
宿屋のベッド近くの窓から荒れた海岸を見ていると、近づいてきたボルサリーノさんが仕方なさそうに笑って頭を撫でてくれた。
「連絡はいれてるし、大丈夫だよォ〜…それよりココアでも飲みなァ〜」
「ありがとうございます…」
受け取って口に含むと、ほんわりと暖かさと甘さが口に広がる。
「ぷへ…」
「美味しいかい?」
「はい、とっても」
素直に肯定すれば、ボルサリーノさんはたれ目を嬉しそうに細めて隣に腰掛けてきた。
「アヤちゃんが喜んでくれると嬉しくなるなァ」
「そうなんですか?」
「うん〜…年甲斐もなくねェ〜…」
ボルサリーノさんの大きな手が、私の頬を撫でる。
「…わっしの手だけでもっと喜ばせてあげたいなァって思っちまうんだなァ〜」
「?どういう意味でしょう…?」
「そりゃあ意味なんて一つしかないでしょうが…」
少しだけ首を傾げるとボルサリーノさんのお顔が近づいてきた。
すると扉がばたんと開く音。
「お二人ともー大変なお知らせですよー…って、あ」
「あら、ロスさん」
「……………」
「あー…いいとこすいません大将。でも緊急なんで」
「……なにかあったのかァい?」
「実はこの島の沖で民間の連絡船がこの嵐に直撃して、乗ってた人の一部が海に放り出されたらしいんですよね」
「!大丈夫なんですか!?」
ロスさんの報告に慌てて立ち上がれば、ロスさんは肩をすくめた。
「さあ?とりあえず船自体は島についたみたいで無事なんですけど、放り出された人らは不明ですよ」
「なら早く助けに行かないと…!!」
「無茶言わないでくださいよ部長。俺も黄猿大将も能力者なのにこんな嵐の中に出たら、こっちが危ないじゃないですか」
「!なら私が行きます!私なら嵐の中でも…」
「いやだめですって。部長になんかあったらこっちは首飛ぶどころじゃすみませんよ」
「っでも…民間人を護るのが私たちの仕事です!!ほうっとくなんてできません!」
「っあ、ちょ!アヤ部長!」
ロスさんの言葉がどうしても受け入れられなくて、私は宿を飛び出し港に向かって走り出した。
嵐の海に飛ぶ
(あちゃー…若くて熱いですねェ…止めなくてよかったんすか?)
(まあ海難事故の救援も海軍の仕事だし…アヤちゃんは人魚だから、海なら平気だろうからねェ)
(なるほど。考えてますねぇ大将)
(でもォ、あのタイミングで来たお前は許さねェかんなァ〜)
(俺に対して心狭ッ!)
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