ファナさんはできる人だ。

部下にしてみてわかった。

忙しさは変わらないけど、前よりも負担が減った気がする。

よく爪先や手の甲にキスしたがるのを除いたら、なにも困ることがない。

おかげで最近は、あたふたと動き回るのも少なくなったから身体の調子も良い。


「…アヤ部長、お疲れ様です。今期の定期健診はこれで終わりです」

「はい…ありがとうございます」

「脈拍や脳波も正常ですし、ホルモンバランスも良好ですよ」


自分の身体のあちこちに付けられた管や線を取りながら、いまいちピンとこない言葉を聞く。


「しかしやはり興味深い身体をしてますね」

「へ?そうですか…?」

「ええ、貴女の海馬の活動量なんかは見ていて飽きませんよ」

「へ、へえ…?」


よくわからない解答に曖昧な返事を返しつつ身なりを整えていると、目の前の扉があけられた。


「姐さん、検診終わったみてェだな」

「あ、戦桃丸さん」

「とっとと帰るぞ。おじきが心配してうるさいんだ」


身体を抱えられ、部屋を後にする。

過ぎていく科学部隊の部署には、私には理解が及ばない不思議なものやすごいものが沢山ある。

たまに恐ろしげなものもあるけど、正義のためのものらしい。


「姐さん、あんまきょろきょろしねェでくれよ。部隊の奴らがあんたに見られてると集中しねェんだ」

「あ、すみません…」

「全く…特に最近あいつが…」

「っあ、ぁ、ああアヤ部長…」

「!ジーリョさん…」

「…なにしにきたんだジーリョ、研究室に戻れよ」


ぬるっ、と空間に割り込むように声を掛けてきたのはべったりとした水色の髪に、汚れた白衣を着た科学者のノワール・ジーリョさん。

酷い吃音で人と話すのが苦手らしいけど、ここにくるとよく話しかけてくれる。


「せ、せ戦桃丸殿…わ、わわわ私はアヤ部長にさ、ささ差し上げたいものが、あっ、あるだけです…」

「?なんです?」

「こ、こちらを…」


差し出されたのは、抱えていた大きめの箱で不器用ながらも水色のリボンがかけられていた。


「に、21の誕生日と、お…お聞きしたので…ぶ、ブーツを…」

「まあ…ありがとうございます」


誕生日の贈り物だと気づいて嬉しくて笑い返せば、ジーリョさんは片目に埋め込んだレンズの奥の瞳を輝かせ、引きつったような笑みをみせた。


「ひ、ヒヒッ…あ、貴女のなめらかなおみ足と、し、しなやかな身体の動きを研究して作りました…から…き、きっと役に立ちます…」

「…変な細工してねェだろうな?」

「よ、より動けるようにしただけの靴ですよ…」

「ならいいが…姐さん、おじき達が待ってるし早くいくぞ」

「あ、はい」


戦桃丸さんは私を抱え直すと、ジーリョさんの横を足早に通り過ぎる。


「…姐さん、よくあのクレイジー野郎と普通に会話できるな」

「確かにジーリョさんは少し変わっていますが…それだけですから」


お風呂にはしっかり入って欲しいですが。

そう苦笑すれば、ため息をつかれた。


「おじき達があんたに過保護になりすぎる理由がわかる気がするぜ…」

「?」


奇怪な人の贈り物

(アヤちゃん、検診お疲れ様ァ〜。戦桃丸君も迎えにいってくれてありがとうねェ)
(構わねェが、おじき…姐さんが…)
(ジーリョさんからブーツをいただいたんですー)
(…アヤちゃん、それは捨てよう?)
(え!だめですよ!)

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