「…アヤ、本当にいいのか?」

「はい…別にクザンさんもわざとというわけじゃないですし…」


動けるまでに回復してきたアヤの微笑みに安堵する一方、やつに気を使う必要などないのにと歯痒さが増す。


「むしろ女性に勘違いさせてしまった私も悪かったんでしょう」

「…お前は悪くない。悪いのはクザンの女癖じゃ」

「…そんな睨まないでほしいんだけど、サカズキ」

「黙れクザン」

「……」

「お、お二人とも…」


クザンと睨み合えば、腕に抱きあげているアヤが困り顔を見せるので、クザンから視線をはずし目の前で座るセンゴクさんを見た。


「元帥、この馬鹿になんらかの処分をせねば気が済まん」

「気持ちはわかるが…アヤが生きていて許している以上、事を大きくするなと上から命令がきている。

クザンへの処分はしばらく執務室に縛り付けて仕事をさせるで、ここは引いてくれ」


また上か。

アヤを保護しろというわりに、死にかけても生きていたらそれでいいのか。

一つ不満に感じながら、舌打ちをした。


「…いっそ去勢でもさせればいいんじゃあ」

「許さなくていいから同じ男として頼むわ。マジでそれは勘弁して」

「でもそれぐらいしねェとお前ェ懲りないよねェ〜」

「生まれた時から一緒の存在を、そんな簡単に切り離していいものじゃないと俺は思うんだけど」

「アヤの失いかけた命のほうが、おどれの汚らわしいもんより遥かに重いわバカタレがァ!!」

「汚いってお前らにも同じもんついて…」

「クザン〜アヤちゃんいるんだからちょっと黙ろうねェ?じゃないと本当に潰すよォ〜…?」

「…りょ、りょーかい…」

「?…いまのなんのお話だったんですか?」


首を傾げるアヤに気にするなと言って頭を撫でると、センゴクさんが息を吐き出した。


「とにかく、またアヤが今回のような目にあってはかなわん…お前たちも常にそばにいれるわけではない。

だから対策として、アヤの部下に護衛ができる人間を入れようと考えている」

「…常にわしらの目が届く場所にいたらいらないのでは?」

「互いの職務に支障をきたすのはわかっているだろう…」

「……」


やはり駄目かと思いつつ、少しばかり前まで管に繋がれてベッドで眠っていたアヤを思い出すと、やはり本部から出したくなくなる。


「とりあえずいまからの会議で、いいやつがいないか聞こうと思うが…奴も戻ってきたしな」

「!…あいつ戻ってきたんすか」

「ああ、もうどの支部でも面倒見切れないと言われてな…本部に戻らせた」

「まァた…うるさくなりそうですねェ〜」

「……」


本部からあちこちの支部へとたらい回しにしていた男。

思い出すだけで頭が痛くなる。


「あの…あいつ、とは?」

「…今まで会ったことがなかったか…一応本部の少将なんだが、しばらくあちこちの支部にとばしていてな…まあ、会議の時に会えるだろう」

「そうなんですか…」


どんな人間かとアヤは期待しているのだろうが、アヤの期待には到底答えられる奴ではない。

一時は自分の部下であった男だが、それだけは確かだと思いながら会議に向かった。


***


「どもどもー!お久しぶりでっす!!」


お前もどってきたのかよ…

そう言わんばかりの空気の中でも、底抜けに明るいちゃらけた笑顔を見せながら敬礼をする男を、アヤはまじまじと見つめた。


「(すごくお若そうだべ…)」


サラサラとしたピンクゴールドの長い髪を後ろで束ね、ホットピンクの瞳を楽しげに細めるスマートな姿。

その姿は海軍内において、とても異質な存在感を放っていた。

するとパッと視線が絡んだ。


「あ、こ、こんにち…」

「あー!あんたが新しいかわいこちゃんな伝達部長さん?前の部長おっさんだったからなー。ようやくお目にかかれまして、こうえ…」

「近寄るな。私的な挨拶は後にしろ」


ずんずんとアヤに向かって歩いてきた男に、赤犬が厳しい声音と視線を飛ばす。

目に映る明らかな牽制と自分への嫌悪を見て、男は両手を挙げて肩を竦め足を止めた


「わかりましたって、まったくサカズキ大将は相変わらず怖いですね!」

「…」

「ロス!いいから席に戻って、全体に帰還報告をしろ」

「あ、了解でーす」


センゴク元帥の言葉に軽い返事を返し、男は笑って自席へと戻りもう一度敬礼した。


「海軍本部少将、オパール・ロス。今日付けで本部勤務に戻りまーす」


その言葉に、会議場にいたそれなりに歳の食った男たちは、それぞれの内心で深いため息を吐き出した。



新たなる嵐

(で、で!今日の会議なにやるんすか!!)
(手元の資料を読め!!)
(なんだか…変わった人ですね)
(アヤ、違うよ。変わってるんじゃないんだ。馬鹿なんだ、あれ)

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