「アイスタイム」
路地裏に連れ込み、そっと抱きしめて、セフレだった彼女の身体の芯まで凍らせる。
ちゃんと互いにセフレだし、遊びだってわりきってくれてたと思ってたのに
勝手に思い込んで、よりによってアヤを刺すなんて。
「…サカズキじゃなくて、俺でよかったね」
遠征中じゃなかったら、すっとんできて怒り狂ってなにをしたかしれないから。
だから俺はまだ良心的だ。この一瞬で済むんだから。
「じゃあね」
全て無かったことにするために、氷漬けの彼女を粉々に叩き割った。
でも、今回ばかりはほんとにいろんな方面でまずいな。
なにを置いても守らなければならないアヤが危なかったし、サカズキとボルサリーノが怖い。
何回か粉々にされる覚悟はしておこう。
そこまで考えて、ため息をついた。
***
「…すぅ…」
「…(処置おわったんだな)」
形がなくなるまで砕いた後、本部に戻り、医務室へ直行。
何本も管をつけて白い無機質なベッドで穏やかな顔で眠るアヤに、少しだけ安堵した。
額にかかる髪を払おうとしたら、その手を掴まれた。
「…ボルサリーノ、…」
「ちゃんと掃除してきたかァい?」
「してきたって…だから手首離して、やばい音してるから」
「どうせ氷だろォ?」
言うが早いか、ボキッと勢いよく手首を折られた…というかもげた。
「…氷じゃなきゃ大惨事だったぞ」
「手ぐらいでガタガタ言うんじゃねェよォ〜…アヤちゃんは君のせいでもっと痛い思いしたんだよォ?」
「それは俺が悪かったけど…」
「しかも下手な刺し方したみたいでね〜…お腹の痕、残るみたいだよォ」
「え…まじ?」
これは予想外だった。
綺麗に治るだろうとばかり思ってたのに、まさか。
「…」
「サカズキに連絡したらすぐにかえってくるってさァ〜」
「…そう…」
聞き流しつつ寝ているアヤに近寄れば、腹部が晒され、ガーゼの上から包帯やらが巻かれている。
「…クザン、おめェ〜…反省しろよォ〜」
言われなくてもこの上なくしてるよ。
去っていくボルサリーノの足音を聞きながら、かがんでアヤの頭を撫でた。
酸素マスク越しの呼吸音に、後悔が増していく。
アヤはきっと全部知っても、刺されたことに関して俺を責めないんだろう。
確信めいた事実が、ますます罪悪感を募らせた。
「…ごめんねアヤ…」
少しおくれていたら俺のせいでアヤが、と思うとぞっとする。
身体は他の女の子で間に合わせても、やっぱり心の方はもう、アヤに占められているらしい。
だからもう、危ない目には合わせたりしないから。絶対に。
「降参する……本当に俺、お前を愛してるみたいだ、アヤ…」
愛の深さ
(こんなに一人を想うなんて)
(しっとりとらしくなく思っていたら、)
(その日のうちにかえってきたサカズキに、暴言よりはやく、重い重い覇気入りの拳をもらった)
back