「長期任務でCP9の一部の方をウォーターセブンに行かせるそうですね」

「…そうですが、それが何か?」

「いえ…ただ貴方には数年前に、トムズワーカーズの件がありますし…正直、黙って行かせて大丈夫かと思いまして」


目の前の椅子に腰掛ける目の上のたんこぶ…もとい、相変わらず青臭いガキのような見た目の情報伝達部長を見る。

警戒したような厳しい目つきが、嫌に鼻につく。

何で年上の俺がこのガキに敬語をつかわにゃならんのか。


「あれは俺のミスじゃねェ。あの罪人のクソ魚人の弟子のせいだって報告したでしょうよ」

「…そのような言い方はいかがかと思いますが…」

「なんです?同じお魚仲間としてあの罪人を贔屓目にしてるんですかねぇ?」

「……人を軽んじる発言を、責めているんです」


ため息を小さく吐いたのを見て、鼻を鳴らす。

俺より立場が少しばかり上だからって調子のんなよ。


「だいたいあの事件も、あんたんとこの部署がもっとしっかり働いてりゃあ、俺達と司法機関側との情報の行き違いもなかったんですよ」

「…それは貴方が私たちへの連絡を怠ったから情報が錯綜したのであって…」

「あぁ?言い訳するんですか?」

「…すみません」


威圧して言ってやれば、所詮ただの小娘だ。

すぐに萎縮して何も言えなくなるザマーミロ!

もう口出すな!


***


「(…とかあの人思ってるんだろうなあ…)」


私が気に食わないのはわかりましたから、少しは聞く耳を持ってくださいあの人は。

不毛になってきたやりとりを終えて長官室を後にし、額を指で押さえる。


「お、アヤか」

「!あら…カク君。お久しぶりです」

「珍しいのう、難しい顔して…長官か?」

「…ええ」


苦笑を返せば、困ったもんじゃな、とカクさんは深い息を吐き出した

一番新人で、私より2歳くらい若いカクさん。

でも私より、ずっとしっかりしてる。


「…そういえば、カク君も長期任務のメンバーでしたね」

「ああ、そうじゃぞ」

「しばらく会えないと寂しくなりますね」

「ワシはせいせいするのう」

「なんとっ!?」

「嘘じゃ」


からかわれたと気づき、じとりと見上げれば頭をわしわしと撫でられる。

この人は最初はつんけんしてたのに、そのうち態度が柔らかくなって、私をからかってくるようになった。


「全く…カク君たら、年上をからかわないでください」

「ハハッ、すまんすまん。あんた一応姉ちゃんじゃったな」

「一応ってなんですかー…」


もう、と漏らして、隣を笑いながら歩くカク君を見る。


「…まあとりあえず、気をつけてくださいね」

「なに、うまくやるわい。心配いらん」

「ふふ…そうですね…」


余計な犠牲を出さず、なるべく穏便に事が済めばいいなと一人、小さく願いながら

数日後、彼らをウォーターセブンに見送った。



動いていた闇

(アヤ、またな)
(帰ってきたらお茶しましょうね)
(じゃあのう、姉ちゃん)
(…狼には気をつけるんだな)
(はい…いってらっしゃい、みなさん)

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