「噂では聞いてたけど…本当に綺麗な鱗だねェ〜」

「ありがとうございます…」


ボルサリーノさんの手で、暖かいお湯の中にバスタオルを巻いた身体を沈められると、普段は見えない私の両足の鱗が輝きを放つ。

何故ボルサリーノさんに入浴させられているかというと

足の怪我で私がうまく歩けないというのと、私が人魚であることの証明である鱗の確認だそうで。


「なんで人魚なの黙ってたんだい〜?」

「…外の人には、あまり言ってはいけないと昔から言われていたので」

「なるほどォ〜…確かに"硝子細工の人魚"は価値が高いから狙われやすいしねェ〜……今回みたいに」

「…はい。身に沁みました」


どこか穴が空いたままの心がちくりとしたのを押し殺して、答える。

先日聞いたばかりの、島がああなった真相が頭の中にぼんやりと浮かぶ。

どこから出たかは知らないけど、『あの島には人魚がいる』というそんな噂を、海賊さんたちが聞きつけたせいだったそうで。

本当にそうなら、私を海賊さんたちが殺さなかった理由はわかるし、皆が死んだのは…


「私の、せいなんですよね。全部」

「……そうなるねェ」

「…ボルサリーノさん。私、何もできなかった…私の、せいなのに。何もできなかったんです…」

「…アヤちゃんは一人で頑張ったよォ〜」


ぽつりぽつりとこぼせば、浴槽の横にボルサリーノさんがしゃがみこんだまた、そっと濡れた手で肩を頭を撫でてくれた。

優しい手に、また空虚な心がじくじくする。


「…」

「…こっちこそォ、不手際で遅くなってごめんねェ〜…?」

「いえ…いいんです…」

「泣いていいんだよォ〜…?」

「…泣きたい、ですけど…なんだか…泣けなくて…」


困ったように頬を掻きながら返せば、ぎゅうと抱きしめられた。


「…アヤちゃんは気を使おうとしてばかりで整理をつけられないんだねェ〜」

「…そうなんでしょうか…」

「そうだよォ…恨み言とか、言わないようにしてるだろォ〜?」


耳元で言われた言葉に、無感動だった心が跳ねた。


「…アヤちゃんはいい子すぎんだァ〜…若いうちから我慢ばっかしてるんじゃないよォ〜」


もっとわがまま言って、困らせくれてもいい。

そんな言葉にこみ上げるものを感じ、心を震わせて小さく頷いた。



泡を割るように

(淀んだ思いを、突かれた気がした)

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