なんで涙がでないんだろう。

悲しいのに、辛いのに。

体の中を隙間風が抜けていくようで、涙は何故かでない。


「(薄情者…)」


本部の静かな医務室の中、窓ガラスにこちん、と額をつけてもたれかかる。

海と空が交わる水平線がいつもと変わらず綺麗で、広大で。

あの広がり続ける深い青の先に今までなら、私の帰る場所が、あの島があったはずなのに。


「(…なくなっちゃったんだぁ…)」


あの深い青に沈んで、絵の具に混じるように溶けてしまった。

あの島にいた全てを、飲み込んで。


「…、ふふ」


思い出される全てが、現実味がなさすぎて、涙の代わりに、乾いた笑いが漏れた。

すると、かしゃんとカーテン開けられた音。


「…あら、スモーカーさん…こんにちは」

「…ああ、」


振り返り目線を上げた先にはスモーカーさんがいた。

硬い表情をしているのを見て、微笑みを返す。

今回の帰省をすすめたことを、気にしているんだろうなというのが、すぐわかる。

スモーカーさんは、気にしなくていいのに。


「わざわざお見舞いにきてくださったんですか?」

「…ああ…元気、そうだな…」

「はい。私は大丈夫です。だからそんな、私より思いつめた顔しないでください」


そういって片手を取り、笑えば、短い謝罪の言葉と共に私の手を握り返してきた。

スモーカーさんは、優しい人だな。


「運が悪かったんですよ…今の世の中、珍しい話ではありません…」


海賊さんもすぐに討伐され、幸せな方だろう。

そう言い、いつまでも現実味を帯びない島の最後の情景に蓋をする。


「…運が悪かったなんかで、済ませられるか…!」

「……そうかもしれません。でも、そう思わないと…」

「なんだ…」

「…いえ、なんでもありません」


口に出したら、全てが溢れてしまいそうで。

また、ごまかすように笑いかえした。



思い出ごと、海に眠る

(スモーカーさんを宥めて帰したあと、政府のカンパニュラさんから遣いがきた)
(そして、なんで海賊さんがきたのか真相を教えてくれた)

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