「アヤちゃんは無事だったみたいねェ。流石サカちゃんの愛は違うわァ〜」
熱くて重くて、握りつぶさんばかりにあの子を縛りつけてくれる。
そう言ってソファに座り笑う、若さを気取った姿の姉に苛立ちが募る。
「…姉さん〜、シラを切るのやめようよォ」
「あらァ…ボル君たら、私が何をしたっていうのォ?」
「海賊焚きつけてェ今回のこと引き起こしたのはどうせあんただろォ〜」
疑問ではない、確信だ。
自分の手を直接汚さずに全ての事をすませる。
腹黒で、策士の姉らしいやり口。
「あら心外だわァ…運が悪かっただけよ〜…それにロマナワイン、私も好きだったのよォ?」
甘くて芳醇な味わい。
鼻にぬける爽やかな香り。
「…飲めるのがこれが最後だなんて残念だわァ」
笑いながらソファ横のテーブルのワインボトルを掴み、グラスに傾ける姉さんに近づき、頬をはたく。
「…姉さんにそれを飲む資格はねェと思うなァ〜…」
姉さんが赤くなった頬を押さえ、笑顔を崩して涙目で睨んできた。
「っ…なにすんのよォ〜…なんで私を責めるのよボル君のばァかァ〜!!うわぁぁぁん!!」
始まった。
私が悪いって言うのと泣きわめき散らし始めた姉に嫌気がさして、背を向け部屋の外に続く扉に向かう。
後ろから飛んできたワイングラスが、わっしの頭を通り抜けたけども相手にはしない。
「あの子が余計な正義感ふりかざすからいけないんじゃない〜!
私は上の憂いを命令通り払っただけェ…私はなんにも悪くないわよォ〜…!!」
「…もう黙っていいよォ、姉さん」
耳障りなヒステリックな言葉に、ただそれだけを返して扉を閉めた。
***
「アヤ!」
「あ、クザンさん」
「…静かにせんか」
「!…サカズキ…いたの」
医務室の最奥の白いカーテンを勢いよく開ければ、包帯をまかれながらも何もそれ以外、変化がないアヤ、その側の椅子に座るサカズキがいた。
「アヤ…大丈夫なの…?」
「はい、大丈夫ですよ。皆さんが思うより私、平気ですから」
ほら、と何も変わらない笑みを見せるアヤ。
その姿に安堵ではなく、強い不安感を感じる。
サカズキに目だけで外で話そうとサインをとばし、アヤの頭を撫でて医務室をでた。
***
「だいたい報告は聞いたけどさ…アヤは実際どうなの」
「…外傷はすぐ治るらしい」
「…中身は?見た限り、不自然なくらい変わってないけど」
故郷の人間が皆殺されたのを見て、アヤがあんなに変わらない態度でいられるとは思えないのに。
そう思ってきたのに、アヤは何も変わっていなかった。
「…わからん。気絶から目を覚ましてからずっとあの様子じゃ」
「…島沈めことは言った?」
「……言ったが、それが必要だったなら仕方ないと言って、泣きもせず、いつものように笑いおった…」
少し頑固なとこはあったけど、大体は素直で聞き分けも物分りもいい子だ。
でも、今回は何かおかしい。
俺が違和感を感じたように、サカズキも感じているんだろう。
解せない、というようにいつもより顔をしかめている。
「…アヤは、案外本音隠して溜め込んで生きてる子なのかもね。
あんまり文句言わないし、"硝子細工の人魚"のクォーターってのも、今までこっちに隠してたんだから」
「……だとしても、まだ様子を見んとどうにもできん」
サカズキの固い言葉に、深い息を吐いた。
沈められた心
(政府も勝手にとんでもないことをしてくれた)
(アヤの本当は今どこにあるのかな)
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