じゅうっ

大した時間もかけず、そこにいた最後の一人をマグマで溶かして、気を失ったままのアヤに近づく。

海水に濡れた姿で、太ももにナイフを突き刺され血を滴らせるアヤの血濡れた頬に指で触れる。


「…アヤ…」


血に混じった真新しい涙のあと。

どんな思いをさせられたのかは、港の惨状を見た時点ですぐにわかる。


「(早く手当てをしに軍艦に帰らねば…)」


しかしこの島を壊し、アヤを傷つけた海賊共の仲間はまだこの島にいるかもしれん。

根絶やしにもせねば。


「(とりあえずアヤか…)…?」


横抱きにしようとした時、アヤの足が少し光ったように見え

不可思議に思い触るとそこには、滑らかながら凹凸を感じた。


「!…鱗…?」


何故アヤに鱗が?

人間のはずでは、と疑問が頭を掠めた時アヤが苦しげに身じろいだのを見て

軍医に診せるのが先決だと、その場を急いであとにした。


***


「サカズキ大将!」

「赤犬さんとアヤ部長がお戻りになったぞ!」

「軍医のところに連れてゆけ!」


軍艦に戻り、出迎えてきた海兵に、アヤの身体を預け軍医のもとに連れていかせる。

それを見送って目の前の島へと視線を戻す。

もはや、この島がアヤに安らぎに与えることなどない。

この島の豊かさが、残した海賊の温床となるくらいならば…


「あ、赤犬さん何を…!?」

「まだ海賊が潜んでいる可能性があるけェ…」


悪が残る可能性があるならば、根こそぎ焼き払う。

両腕をマグマに変え、島を焼き落とすべく放った。


***


『(この島は祭り気分なのか…)』


ある仕事のために来た、この島。

一際耳に入るタンバリンの音に、眉根をよせて見れば、目が奪われた。

花が舞う風に揺れる軽い赤茶の髪。

不思議な歌を紡ぐ、桜のような小さな唇。

憂いの影がかかる丸い緑の瞳。

桶の中で、ぶどうを踏み潰し踊る小さな少女に。


『アヤのぶどう踏みが気になりますか?』

『…アヤ、というのか』

『まだ幼いですが覚えがよくて、島1番のワイン娘ですよ。大きくなるのを島の者は全員楽しみにしてまして…』


老いた男が少女、アヤを呼ぶ。

桶の中から出て、ぶどうの果汁に濡れた足で走って近づいてくる。

見慣れないわしの姿のせいか、少しとまどった素振りを見せたが、すぐに笑いかけて来た。


『…とっても大きな海兵さん…こんにちは』

『…、ああ…』


短く返せば、アヤは自分の赤茶の髪を飾っていた、一輪の赤いバラを差し出してきた。


『お客さまにはお花をあげるんですが…今は手元にないので、私のお花をどうぞ』


ふわりと笑う姿に、思わず屈んで花を受け取れば、暖かく柔らかいアヤの小さな手に触れ

その瞬間、確かに心までもが強い熱を持った。

あの日のことを、忘れたことはない。


「…船を出せ。あの島に生存者はもうおらん」



憧憬すら、燃ゆる

(過去の残り香のする、燃え盛る島に背を向けた)

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