「どうして見回りの軍艦が報告にくるまで遅れたんじゃァ…!!」

「も、申し訳ありません…!!支部の連絡室の受話器が外れていたようで…!!」


今、赤犬の乗る軍艦の中はてんやわんやになっていた。

海賊にロマナ島が襲撃を受けている。

そう見回りの軍艦から緊急の報せが入ったからだ。


「バカタレェ!!それでもおどれらは海兵か!!」

「で、ですか部長はバスターコールの権限をお持ちのはず…要請がないということはまだそんなに時間が経ってないんじゃ…」

「おどれに…アヤの何がわかるんじゃァ…!!」


ぼこり、と赤犬の体の一部がマグマと化す。

それに顔を青ざめさせ怯える海兵。

情けない海兵をぎろりと一睨みすると、赤犬は海の向こうにあるだろうまだ見えない島を静かに見つめる。


「(アヤがそう簡単にバスターコールを押すわけがないんじゃ…)」


大方、真っ先に選択から除外をしたんじゃろう。

あの島を愛しているアヤに、あの島を壊す選択はできん。


「…(しかし…何故このタイミングなんじゃ…)」


あの日出会った時のような、少女の笑みを見れなくなる気がして、赤犬は船の速度を更に上げさせた。


***


「はぁ…はぁ…っ」


森の中を駆け、港に向かったが、すぐにその場を走りさった。

船は赤々と燃え、青かった海を赤く染めるようにぷかぷかといくつかの死体が浮く。

地獄だった。


「っ、おぇ…!」


思い出した瞬間、こみ上げる胃液。

吐き出すものなんかもうないのに、また液だけがせりあげて、酸が喉を焼いた。


「っ…ぅう…(みんな…死んじゃったの…?)」

「ーっ、ーーっ!」


びちゃびちゃと吐き出して、口の中にのこる気持ち悪さと嫌な考えに

涙を堪えつつ小川で口をゆすいでいると、か細い悲鳴が聞こえてきたような気がした。

聞き覚えのある声に立ち上がる。


「あん…な…?」


ざわり、嫌な感じが胸をざわつかせた。

声が聞こえてくるほうへ、誘われるように走る。


***


「、…?(あれ…アンナに何をしてるの…!?)」


パンパンと乾いたような音が響く。

たどり着いた先では、男たちが数人アンナを囲うようにしてそこにいた。

アンナは服を破かれた状態で、激しく身体を男たちにゆさぶられていた。


「(…わからないけど…いやだ…)」


あの行為の意味は知らない。

クザンさんがしてくれるマッサージとも違う。

ただひどく気持ち悪いものにかんじてた。

早くアンナをあの気持ち悪いことから助けなければ。


「…その子を離しなさい…!"海賊"…!!」


ふつふつと湧く、煮えたぎる感情と同時に、手元で弾ける発砲音。

アンナを好きにしていた数人の男は、短い悲鳴を上げて、すぐに血に沈んだ。


「アンナ!」


駆け寄って、アンナにかぶさるように倒れた頭部が半分になった血濡れの男を力づくでひきはがす。


「っはあ…もう大丈夫ですよ、アン…!?」


横たわるアンナの姿を見て、続く言葉が消えた。

鼻につく匂いを放つ白い液体。

破かれた布の間から、ななめに引き裂かれ、生々しい内臓が覗いたお腹が見えた。

両足の間からも血が溢れ、とにかく、身体の下全部が赤かった。


「あ、アンナ…しっかりして…!」


そっと肩に触れると、ひどく冷たい。

ぼろぼろと瞳から熱い雫が零れていく。


「ごめ、なさい…アンナ…っ、う…うぁぁ、あぁ…!」


ごめんね、ごめんなさい。

痛かったでしょう。辛かったでしょう。

動かないアンナの身体を抱きしめて、泣きじゃくりながら言葉を繰り返した。



崩壊はどこまでも

(まだ若い可愛い妹分ももういない)
(怖かっただろうに、私は最後まで何もしてあげられなかった)
(間に合わなくて、ごめんなさい)

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