「皆さん!やめてください!落ちついて!!」


街に着き、鍬や草刈り鎌といった農具を手にしたおじさま達を押しとどめる。


「だがアヤちゃん!海賊にこの島を明け渡せってのか!!」

「猟銃数本や農具で海賊には勝てません!!島は私が護りますから!早く港へ行って逃げてください!!」

「自分らの島を自分らで護れなくてどうすんだ!!海賊なんかに負けてたまるか!!」

「そうだ止めるなアヤ、お前こそ港に行って逃げろよ!!」

「ダフまで…!みんな冷静になるべよォ!!命を大事にしてくんろ!!」


ボンッ!!


「!?」


いきり立つ男性たちの先頭に立つ、ダフの手にある猟銃を押さえつけながら必死に叫んだ時

銃声と共に、斜め前にいた牛飼いのロッジおじさんの頭が弾け飛んだ。

空気が静まり、足に根が生えたように誰もその場を動けず

首から上から血を吹き出して倒れるおじさんの身体を見ていた。


「はーっはっはっは!!お前らは島民と…ああ、なるほどな…。まあ、しかしそろって農具を武器に出迎えとはなァ…物騒な街だ」

「っ…"悪虐"のホアド…!!」


空気を割るように高笑いして街に踏み込んできたのは、海賊さん達だった。


「っよくもロッジを…!!」

「お前らがそんなちゃちな武器手にしてるからだ!お前らみたいな奴らにゃ痛い目みてもらわねェとわかんねェだろ」


死にたくなきゃ、全員俺たちの奴隷として働け。

にやりと笑った男の顔に、ふつりと湧き上がる何か。

しかしそれより早く押さえつけたダフの銃を握る手に力が入ったのに気を取られ、思い切り振り払われた。


「っダフ!!」

「っふざけんな!!誰がお前らなんかの言いなりになるか!俺たちの島から出て行け!!」


ダフの言葉に凍りついていた空気が再び熱され、海賊たちに怒声をあげながら向かっていく。


「…仕方ねェ。皆殺しだな」

「っだめェ!!皆逃げてッ!!」


走りゆく街の人らに手を伸ばし叫ぶも、声が届かない。

銃声や大声が街の中に響き渡り、よく見知った人らが転がっていく。

年季のあるレンガや石畳を、ぬるい赤が犯していく。


「(なんで…こんなことに…)…夢だって…言って…」


涙が地獄のような視界を崩し、胃がひっくり返るような痛みと吐き気に苛まれながら、立ち上がる。


「…ころさ…ないで…」


どうして優しい人が、苦しまされなきゃいけないの?

犠牲を産みたくなかっただけなのに。

ただ一つのこの願いは、いつも叶わないらしい。

アフリクシオンを震える両手で構えた。


「っ…ひぃ…!」

「楯突いたことを後悔しやがれ…!」


視界に映りこむ、どこか遠い物語のようなシーン。


「うあ…ああぁぁあぁ!!!」


反射的にアフリクシオンの引き金を引いていた。

海賊の男の頭が私の手でなくなり、倒れる。

ああ、殺してしまった。

そう恐怖したり後悔するより早く、身体は動いていた。

次々と海賊の頭を撃ち抜く。

ぽっかりと穴が空いたように何も感じないのに、視界を揺らす涙と嗚咽だけはなぜか止まらなかった。

カチン、弾切れの音が耳に届く。

機械的に弾を充填しようとするが、手がぶるぶると震えて上手く入らない。

様々な感情が押し寄せて心を押しつぶしていく。

混乱と重圧に、嗚咽が大きくなる。


「ぅあ…ぁあ…っ…ああ…なんで…なんでぇ…!!」

「アヤッ!!」


呼び声と共に人肌の温もりが私を包んで、地面に引き倒した。

すぐあとに銃声が聞こえる。


「っ…」

「っ…ダフ!」


私を抱きしめて地面に倒したダフの腕からは血が。

私を庇ったんだとわかるまで、時間はかからなかった。


「ダフ…ごめんなさい…!私が弱い、から…!!」

「いいから逃げろ!!俺たちが勝手に残ったんだ…だから行け!」


引っ張り立たされ草陰に背中を突き飛ばされる。


「ッ!」

「ここは俺たちでやる!弱ェアンナたちを頼む」

「っ…死なない…?!」

「お前を嫁に取るまでしんでたまるかよ」


だから行け、といつもの不敵な笑みを見せてから猟銃を構え直し背を向けたダフに、少し崩れかけた心が形を戻していく。

背後の争いの音を聞きながら港に向けて、森の中に走り込んだ。



軋む音は瓦解の始まり

(どうして私の大切にしたいものは、壊れていくのかな)


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