「あれがロマナ島か…」
グランドラインという魔の海域では力及ばなかったが、西の海でなら俺も天下を取れるだろう。
見えてきた島に、男が自船の甲板で口角をあげる。
「小せェ島だが、足がかりにはもってこいだな」
「お頭ァ、あの島本当に好きに襲っていいんすかい?」
「おうともよ…野郎ども、やりたい放題暴れちまえ!犯すも殺すも自由だ!なんせ今日の俺たちを止めるもんはねェんだからなァ!!」
頭目の男の言葉に、ゴロツキのような男たちが歓喜の声をあげた。
***
「島の裏手に海賊船がいるぞー!!」
外から聞こえた声に、ばっと目を開け飛び起きしばらく置物と化していたアフリクシオンを手にした。
同時に、部屋にアンナが怯えた顔で飛び込んでくる。
「アヤ姉!海賊が…!」
「ええ、聞こえました…アンナ、町のみんなと早く森の奥に隠れにいくんです。海軍にすぐに連絡をとりますから…大丈夫ですよ」
「っ…でも…」
「心配しないでください…私は海兵ですから」
そっと背中を押して、ためらうアンナを行かせる。
走り去る姿を見送ってから、鞄を肩にかけ、机のでんでん虫を近隣支部につなぐ。
しかし話し中なのか、つながらない。
「(なんでこんな時に…!本部に救援要請を…!?いえ、それじゃ間に合わない…!!)」
本部からここまでなんて遠すぎる。
くる頃には誰も助からないだろう。
見回りの軍艦が、島の異変に気づくのを待つしかないというのだろうか。
「…!(…一つだけ気づいてもらう方法はある…)」
息を飲んで、鞄からそっとゴールデンでんでん虫を取り出した。
みるだけで、いまだに身体が震える。
『何かあった時のために持っていけ…お前の身の安全は重要なんだ』
「(…ああいわれたけど…でもだめ、押せない…押せるわけない…)」
これを押せば、私は助かるんだろう。
けれど島は?他のみんなは?どうなりかねないか、わかってる。
私はバスターコールをかける意味を知りすぎてるから。
でも押さないなら、救援がくるまで私一人で島のみんなを護るしかないということ。
「(私に…できるんだべか…?)」
いくら多少は戦えるし、土地勘があると言っても
弾に限りがあるアフリクシオン一つで、六式も習得できてない私がどこまでやれるか。
「(でも私がここでうだうだしてたら街の皆が襲われてしまう…)」
それは絶対にだめ。
バスターコールはかけないと決めた以上、私が護らなきゃ、誰が街の皆を護るの?
アンナにもさっき言ったじゃない。私はもう海兵だと。
ゴールデンでんでん虫をしまい、ぎゅうとアフリクシオンを握りしめた。
「…(とりあえずどこの海賊か確認しにいきましょう…!)」
もしかしたら、杞憂で、穏健な海賊かもしれない。
そんな淡い期待も込めながら、島の裏手の海岸に向かった。
動いた歯車
(ここにはね、ようやく取り戻した幸せが溢れているの)
(だから私から、皆から、どうか奪わないで)
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