家出からしばらくが過ぎたけれど、前よりも皆さん過保護になった。

そして私の行動管理も、厳しくもなった気がする。

どこに行くにも報告が義務になったし、無駄な外出は控えさせられるようになってしまった。

重役のくせに家出をした自分のせいだといえばそうだけど、流石に肩が凝るし、ため息もでる。


「(…もう家出なんてしないのに…)…はあ…」

「部長、失礼します」

「!…どうしましたか?」


入ってきた部下を見て姿勢を正せば、大将たちが呼んでいると言われた。

呼ばれるようなことは最近はしてないはずだと思いながらも、指定された場所へ向かうことにした。


***


「…紙、ですか?」

「ビブルカードじゃ」


これが…、と端をつまんで持ち上げる。

なんの変哲もない白い紙にしか見えないけれど、これが相手の位置を知らせる命の紙だと言うのだから驚きだ。


「…で、これは一体誰のビブルカードなんです?」

「お前のじゃ」

「…?作った覚えはないんですが」

「当たり前じゃないの。アヤの爪もらって作ったんだから」

「あ、なるほど……え?勝手に私のをですか?」

「うん。だって風邪ひいて傷だらけで外に出せなかったから仕方なくね」


アヤが元気なら一緒に連れて行ったよ?

そう言って、しゃがんで頭を撫でてくるクザンさんに、なんとなく納得できたようなできないような不思議な気分になりながら、生返事を返した。


「…でもなんで私のビブルカードを?」

「ん〜…アヤちゃんも18歳って年頃の娘さんになったしねェ〜…一人で出歩いて危ない目にあった時、すぐにわっしらに居場所がわかるようにねェ〜」


アヤちゃんを護るのも職務だから、とサングラスの奥で目を細めて笑うボルサリーノさんに、なるほどと納得した。


「じゃあ、この紙を私が皆さんに分ければいいんですね?」

「そういうことォ〜」


それならばと紙を折って手で切り、一枚を手元に残し、三人に切れ端を渡す。


「…なんだかこうすると、皆さんに私の命をちょっとずつ握られてるみたいで不思議ですね」


心臓のあたりが握られてるような感覚。

気のせいなのはわかってるけど、首を掴まれてるような感じで息苦しいような気もする。

そんな思いを抱えながら笑えば、赤犬さんが自分の名前を書いた紙の切れ端を私の掌に押し付けてきた。


「?…もしかしてこれ、サカズキさんのビブルカードですか?」

「…それ以外に何がある…お前もわしの命の一部を握っておけ。何かあればすぐにいる方向がわかるじゃろう」

「ちょっとちょっと、サカズキだけ抜け駆けしないでよ。アヤ、俺の命も持っててね。1番に助けを求めに来ていいからね」

「おォ〜…わっしもアヤちゃんにあげるからいつでもお互いのことがわかるねェ〜…」


そして、くしゃっとよれた切れ端とざっくりと手で切ったらしい切れ端をくれた。

性格がしっかりでていて、思わず小さく笑ってしまうが、ちゃんと握りしめた。


「…ありがとうございます。肌身離さず持ってますね…離さないように」


笑顔でそう返せば、思いっきりクザンさんにだきしめられた。



鎖を結わえた

(可愛いなあアヤは。ほんといい子)
(ふふ…ありがとうございますクザンさん)

(重みを感じないわけではないけれど)
(この重さが、絆を繋ぐのに必要なものならば)


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