『島への帰省は一ヶ月許可するが…いくつか条件がある』

『送迎には複数名の将校の護衛をつけること』

『武器は携帯していくこと』

『本部への連絡は怠らないこと』

『それからーー…』


***


朝もやがかかる、早朝の海。

わずかに海風に混じる、農園のような田舎くさい、でも優しい匂い。

私の生まれた島の、懐かしい匂い。

久しぶりに嗅いだ匂いは心に染みて、少しだけ目を細めた。


「(この海域に入ったなら、もうすぐ島影が見えるはず…)」

「アヤ」

「!…スモーカーさん…」

「コーヒー、いるか?」

「…はい、ありがとうございます」


湯気が昇るマグカップを二つ持ったスモーカーさんから、一つ受け取り口にする。


「…お前が淹れる方が美味いだろうがな」

「いえ…美味しいですよ、スモーカーさん」


にっこりと笑えば、スモーカーさんの表情が少しやわらかくなった。

やっぱり繊細で、心の優しい人だ。


「…スモーカーさん。今回は、ありがとうございました。なんだかクザンさんに言ってくださったみたいで」

「いや…気にしねェでくれ。俺が勝手にしたことだ」

「でも、おかげで帰ってこれましたし…こんな西の海の田舎までわざわざ送るのも買って出てくれて…」

「上が、護衛がなきゃ認めなかったからな…」

「…仕方ありません。私は部長で、それなのに問題児ですから」


スモーカーさんの言葉に、自分の首を絞めてるのは少なからず自分だと苦笑する。

すると、スモーカーさんが少し迷うように視線を彷徨わせたあと、ぽつりとこぼした。


「…それでも俺は、お前の真っ直ぐな正義が嫌いじゃねぇし…お前が信頼も恋人も失って、傷ついてる必要はねぇと思うぜ」

「!…恋人って…スモーカーさん…知って…?」


誰にも、ばれてないと思っていた。


「…安心しろ。だれにも言う気はねェし、どうこうする気もねェ」

「…スモーカーさんのことは信頼してますからその心配はしてません…でも、ありがとうございます…」

「…俺はお前の味方でいるつもりだからな、アヤ」


優しい言葉に、少し鼻の奥がつんとした。

嬉しくて泣きそうで、スモーカーさんから目を逸らし、進路の方向を見た。


「…あ、…」

「…あの島か?」

「…はい…あれが、私の生まれ育った島です」


晴れていく朝もやの向こうに、島影がゆらめく。

懐かしい田舎の匂いが、より濃さを増した。

花の甘さが、空気に混じりだす。

そういえば、今は花が満開の季節だったな。


「(ただいま、私のふるさと)」


私のはやる気持ちに応えてか、追い風が僅かに吹き抜けた。



おかえりを聞かせて

(一番言ってほしかった人は、もういないけれど)

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