「…お久しぶりですね、ヴェルゴさん」

「ああ、久しぶりだな…」


私が大敗した審問会からしばらくが経った。

あの件以来、政府からの私の株は右肩下がりだし、周りは私を少し腫れものを扱うみたいで居心地が悪かった。

真実なのに、と周りに泣き言を吐くわけにはいかなくて、ずっと黙ってた。

だから、久しぶりにヴェルゴさんと会える日がきたのは、とても嬉しかった。

1人の女の子として、私が甘えてもいい唯一の人のはずだから。


「…アヤ、」

「?はい」

「少し、真面目な話をしたい」


静かで低い声が、冷たく耳に響いた気がした。

どうして、不安でこんなに胸がざわつくの。


「…なんでしょう?」

「…俺と、別れてくれ」


ヴェルゴさんに告げられた言葉は、彼らしい短いもの。

嫌な胸のざわつきは大当たり。

でも少しだけ驚いたけど、このタイミングだ。

よく考えたら、当たり前かもしれない。

込み上げる涙を耐えて、問う。


「…七武海相手に問題行動をして、挙句失態を犯したから…もう、私とは付き合ってられませんか?」

「聡いな、お前は…どうしてその聡さを生かせなかった」

「ヴェルゴさん…聡さと諦めは、違いますよ」


ですから、足掻いたこと自体に悔いはありません。

ゆっくりと微笑む。

私の心が軋む音は、この人に聞こえなくていいから。

この人にはこの人の人生がある。一緒にいたら、たしかに私は邪魔でしょう。


「…結果として何もできませんでしたし、私の株も下がりましたし…貴方をこうして失うし、散々ですが…でも、悔いはありません…」


だから今まで、子供の私を愛してくれてありがとうございました。


「…大好きでした、さようなら」


笑って頭を下げる。頬を伝ったものは見えないでいい。

早く、私から離れて行ってください。

もう貴方にも、甘えられないから。


「あっさりだな…だが、わかってくれたならいい」


くしゃりと私の頭を撫でて、ヴェルゴさんは横を通り抜けていった。

甘えたかった温もりも、遠ざかる。

ぽたぽたと、床に私の涙の水溜まりができ始める。


「っ…(ヴェルゴさんまで…私のそばからいなくなっちゃったな…)」


本当に大好きだったから、辛い。

でもこのままここで泣いていたら不信がられるし部屋に帰ろうと、涙を拭う。

その際にヴェルゴさんに会う時だけいつもつけていた、手首のオレンジ色の天然石のブレスレットが目についた。


「…(…未練がましいのは、やめないと)」


重たいのは、好きじゃないだろう。

腕からブレスレットを抜き取って、私用の庭のそばにある海へと近づいた。

そして近くに跪き、ちゃぷりとブレスレットを持った手を海につけ、離す。

青く深い海に飲み込まれるようにして、ブレスレットは消えていった。


「…っ…(これで、よかったんです…)」


また溢れ出しそうな涙を耐えて、部屋に向けて歩き出した。

お願い。今は誰も通りかからないでください。

心がもう、壊れてしまいそうだから。



失う痛みばかりで

(ぱたんと部屋の扉を閉めた途端、扉つたいに崩れ落ち、涙腺も決壊)
(次から次へと、私の大切は零れてく)
(もう失うことには、疲れたよ)

back