どうして、貴女が否定するんですか?


「…たしかに…島は海賊にやられましたが…ドンキホーテファミリーではないです…」


何故そんな嘘を?


「私はたまたま生き残って…ドフラミンゴさんに拾われただけです…それが、真実です…その人の…アヤさんの言うことは、間違ってます…」

「…なるほど。被害者がこう言うのなら間違いはないな…こうなるとドフラミンゴ氏を、不問と判断するしかないが」


何故なんですか?


「そんな馬鹿な…っ!!」

「アヤ部長…これで気は済んだかね?」

「っ…」


気なんか済むはずない。

私はこの2年で、絶対に言い逃れできないくらい調べ上げたのに

まさか、それが被害者本人から否定されるなんて。


「フッフッフッ、疑惑が晴れたようで何より」


ドフラミンゴの満足そうな言葉に、ぎりっと唇をかみしめる。


「…(なんで…!!)」

「…ショウガン部長。君の憶測には間違いがあったということですな…」

「っ………申し訳、ありません…」


違う!そんなはずがない!

そう思いながら、フルールさんに完全に否定された今、これ以上は私の無駄な足掻きでしかないとわかってしまったため

静まりかえる会議場で苦々しく思いながら、私が謝罪の言葉を放った。

それを最後に、茶番でしかない聴聞会は締めくくられた。


***


「…」

「っ…フルールさん!」


審問会を終え、離れゆく背中に声をかければ、彼女は足を止め、振り向いた。


「…アヤさん…」

「…何故、否定したんですか…?あの男に、なにか命令を…」

「…いいえ、私の意思です…」

「!…なぜ…」

「…私を助けようとしてくれていた貴女や、ほかの誰かに死んで欲しくないんです…」

「!」


自分のために、犠牲を出したくない。

その言葉が、胸に重く響いた。

見開いた目に、涙が滲んでいく。


「っそれで、貴女はあんなことを…」

「…助けてくれようとした貴女のことは、忘れません。ありがとうございました」


もう、行かないと。

そう言い残し、彼女はまた背を向けて去っていった。

その姿にかける言葉はもはや見つからず、ただ眺めることしかできなくて


「っ…(何が正義…私は…なんて無力な…)」


頬を伝う雫。

両手で顔をおおい、そのまま廊下にへたり込む。

白いコートに、落ちた雫のシミが滲んだ。



陳腐な劇は下敷きに

(背負った正義という言葉の、不自由さと重さを知った)

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