「アヤ、上がらなくて大丈夫?身体冷えない?」
「大丈夫ですー…もうちょっと泳ぎたいので」
「あ、そう…」
夜のプールサイドのベンチでだらりとするのも悪くないんだけど、一人だといささか飽きてきた。
アヤはプールに夢中でまったく構ってくれないし、不満で仕方ない。
ゆったりとした動きで、水面に仰向けになり気持ちよさそうに泳ぐ姿は可愛いけども
それでもやっぱり、俺がけして相入れないものに興じる姿を見るのは寂しいと思ってしまう。
「…泳ぐのほんと好きだよね。そんな楽しい?」
「楽しいですよ〜…気持ちよくて、体がふわりと軽くなるのがとっても気分よくて」
「んー…俺にはわからないな」
水の中を泳ぐことに、そこまでの幸せや魅力を感じない。
少なくとも今のアヤみたいに、うっとりとした顔をするほどには。
「クザンさん達は能力者だから泳げませんもんね…カナヅチなんて、私には絶対耐えられないです」
「そう?もうそれが当たり前になったら平気よ。能力ついたら強くもなるし。」
「そうかもしれませんが…私は、能力が消えるより泳げ無くなる方が、やだなあ…」
そして満足したのか、アヤはプールの梯子を登り、水の中から濡れた姿を表した。
泳いでいる時のアヤは、そればかりに夢中で、少し妬いてしまって複雑だけど
泳いだあとのアヤは、一際生き生きと輝いてみえて好きだ。
ぽたり、雫がしっとりと濡れた髪から垂れる。
その時、雲間に浮かぶ月がアヤを薄く照らす。
すると、雪のように白い足が、粉雪でもかけたようにきらきらと輝いた…気がした。
「!…アヤ」
「はい?」
「……いや、なんでもないよ」
人の足が輝くように見えるなんてある訳がないかと、
あまりにもアヤに酔いすぎたような、言いかけた言葉を飲み込んだ。
水面に踊る、白い足
(足が月の光に反射して光ったように見えたなんて)
(夢見がちな童話じゃないんだから、ありえないか)