第壱話 初雪は降り始め





「そういや知ってるかい?お米ちゃん」


「なにをですか?」



江戸のかぶき町に冬の足音を感じさせる、北風の吹きこむ日、お客さんの一人が教えてくれた話。



「なんでもよォ、お登勢さんの店の上に住み着いてる変な浪人が万事屋ってのを始めたんだってよ」


「よ、ろず・・・や・・・?」


「依頼すりゃなんでもやってくれる、なんでも屋って話だ」


「なんでも屋さんですか・・・」


「この店も近くだし、お米ちゃんも会う事があるかもなァ」


「はぁ・・・」



その時はなんとなくピンとこないし、私には関係ないことだろうと生返事で返してしまった。


のちのち関係ないなんて言えなくなることも、予想できずに




***




あの日から時は過ぎ冬になり、初雪が降る昼過ぎのことでした。



「今、店開いてる?」


「あ、はい大丈夫ですよ。いらっしゃ・・・」



ふわふわとした真っ白な髪、にごった紅い目


見たことのないコントラストに、思わず見入り、私は言葉を失いました。



「おーい?お嬢ちゃんどうしたよ」


「え、あっ、すみません・・・お客さんの髪と目が・・・」


「・・・」


「その・・・すごく夕焼けみたいに綺麗でびっくりして・・・」


「!」



思わず口をついて出た恥ずかしすぎる言葉にはっとし、あわてて取り繕う



「あ、それより注文ですよね?ご注文は?」


「・・・んじゃ、団子一つ」


「わかりました!」



初対面の男の人になんてことを言ってしまったんだろう


そう思いながら奥に引っ込む。


けれど恥ずかしさよりも、あの人の姿が忘れられないことに心臓は大きく脈打っていたのです。




***




「(変な嬢ちゃんだな)」



いきなり綺麗とか、普通初対面の男に言うもんか?



「(そんな変な奴、あいつくらいしか・・・ってイカンイカン俺)」



思いだしてしまった。


もうあいつは、ここにいてはくれないのに


頭を振って、いつも近くにいたあいつの姿や声を記憶の底に閉じ込める。



「(俺が男じゃなかったら泣いてるぜ、これ)」



この目を夕焼けなんて、あいつと同じことを言うから



「(あー・・・くそ・・・不意打ちされた)」


「あの、」


「Σうおあっ!?」


「Σひえぇぇ!?ごめんなさいぃぃお団子ですぅぅ!!」


「あ、あぁ・・・なんか悪ィな」


「い、いえ。私もさっきあんな急に馬鹿なこと言ってすいません!!」



顔を真っ赤にして思いっきり頭を下げてくるお嬢ちゃんに、思わずこみ上げる笑い。



「くっ・・・」


「なんで笑うんですかッ!」


「いやアンタおもしろくてよォ・・・名前なんてーの?」


「え、あ、望月米ですけど・・・」



たじたじと答える嬢ちゃんを見ながら、団子をかじる。



「お米か・・・俺ァ坂田銀時だ。万事屋やってるもんだ」


「!貴方が・・・」


「銀さんでいいぜ、よろしくな。困ったことがありゃ力にならァ」



ニッと笑って名刺を渡してやったら、お米はまた顔を真っ赤にした。


まだ若ェし、男慣れしてねェのか?


まぁ兎にも角にも、俺はこうしてこの『望月屋』の常連に仲間入りしたのだった。






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