情けないくらい、あれから涙が止まらないで赤犬さんに抱えられて部屋から連れ出された。


「…アヤ、もう泣くな」

「ごめ…ごめん、なさい…」


膝の上に座らせられて頭を撫でられるから、申し訳ない。

でも涙を止めようとしても、手の中のゴールデンでんでん虫が怖くてたまらなくて、涙が止まらない。


「…そんなにゴールデンでんでん虫が…いや、バスターコールが怖いのか?」

「っ…はい…ごめんなさい私…これだけは、…」


思い出したくないことがあるんです、と続けようとしても、嗚咽が漏れて言葉に詰まる。

それに、保管されていた書類で読んだ。この人もあの日、参加していたこと。

だから、言えるはずがない。言えるわけがない。

私がなぜこんなにもバスターコールが怖いのか。


「(…やはり、普段は見えなくとも根深いか…)…大丈夫じゃ、アヤ…押さなければ何も起きん…」

「!赤犬、さん…」

「見たくないなら机の奥に深くしまっておけばいいんじゃ…」


熱い胸板に抱き寄せられて、ぎこちなく頭を撫でられる。

マグマだからだろうか、体温が高くて暖かい。

そっと顔をあげて、赤犬さんの表情を伺う。

厳しい顔をしてはいたが、私に怒ってはいないようだった。


「…っ…何も…聞かないんですか…?」

「……お前の出身はオハラのあった場所の隣島じゃ…大体わかる…(それだけではないが…)」

「そ…ですか…」


私の父のことまでは知らないらしい返事に、なんとなくほっとし、胸板にまた顔をぽすりと埋めた。


「……ごめんなさい、取り乱して…トラウマと向き合う覚悟はして、海軍に志願したのに…」

「…」

「自分でトラウマのスイッチを持たなきゃいけないの…予想してなかったし…失念してて…」

「…気にしないでいい…とりあえずもう休め…」


いつも厳しい赤犬さんとは思えない優しいセリフにさらにあったかくなって、急に眠気が訪れる。


「(眠い…なんか…泣いたら…つか、れた…)…………」


少しずつ意識が落ちていくのを感じながら、その感覚に身を委ねた。


***


「……寝たか」


聞こえてきた寝息に、張り詰めていた空気を壊すように深く息を吐き出した。


「(…トラウマ、なんじゃな…)」


アヤの小さな手の中のゴールデンでんでん虫を抜き取り、そばの机におく。


「(…植え付けたのはワシら…いや、ワシか…)」


偶然とはいえ、幼い心に深く悪夢を突き刺さした事実は消えんじゃろう。

だがそれを哀れに思うと同時に、どこか優越感を覚える。

どんな形であろうと、アヤの中からワシとの関わりが消えていなかった。

おそらくこれからも、消えることはないんじゃろう。

その事実に、口角が上がる。


「アヤ……すまんのォ…じゃから、ずっとそばにいちゃる…」


お前から奪ってしまった分は、しっかりとワシが埋めてやろう。

本部に連れてくるまでは叶ったんじゃ…これからは、アヤを政府や海軍から逃げ出せなくしていくだけ。

それは正義のためであり、ワシ自身のためでもある。


「…アヤ…ここにきた今、どこにも逃がさんからな…」



籠に飛び込んだのは

(確かにアヤは可愛いけどさ…サカズキこっわ)
(あそこまでお熱とはねェー)
(歪んでんね…アヤもかわいそうに)
(まあ…あの子を海軍から逃がさねェのはわっしらも一役買うことになるけどなァー…)


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