跳ねたやわらかい赤茶の髪。

若々しい顔立ち。

違いは目の色と性格か。

しかし、差し引いても本当にあいつによく似ている。

新しく情報伝達部へ引き抜くことになったあの子は、アヤは。


「センゴクさん、報告書を…」

「…(やはりアヤはあいつの…)」

「?センゴクさん」

「!いや…なんでもない」

「それならいいんですが…」


気づかないとは思考に浸り過ぎていた。

アヤの手から報告書を受け取り、すまんと頭を撫でた。

しかし、気になる疑問は解消せねば


「…アヤ」

「なんでしょう?」

「…お前の母は本当に、ショウガン・ハナか?」

「?はい、そうですが…」

「本当は…ハナンナじゃないか…?」


もう十数年行方知らずの、魔獣と呼ばれたいつまでも記憶に鮮やかな女の名前を出せば

アヤは誰のことだろうと言いたげに少し首を傾げた。


「うちの母の名前は、たしかにハナですが…」

「…そうか。すまんな、おかしなことを聞いた」

「いえ…」


訝しげなアヤの短い髪をもう一度なでる。


***


『センゴク、貴方は本当にこの世界を正しいと思うの?いつまで貴方はそう言えるのかしら』

『…海軍も世界政府もこの海の秩序に必要なものだ』

『…必要ね…笑わせるわ。重大な真実を隠し、都合の悪い真実を知るマザーを魔女と追う貴方たちが正義、秩序なんて……』

『っハナンナ!私は、お前を護りたいと…』

『やめて。そのくだらない世界に仕えてる身で、私を護るなんて…馬鹿にしないで』


***


「…(『貴方に私は護れない』か…その通りだったな…)」


お前の生き写しのような少女すら、命令のまま追い落とそうとしている私には出来なかっただろう。

追い続けねばならない敵だったお前を護るなんてことは。


「…(ハナンナ…)」

「…センゴクさん…その、ハナンナさんて人のこと…」

「…いや、ただの追いかけていた賞金首の女の名前だ…お前がよく似ていたから、血縁かとな」

「…そう、なんですか…」

「ああ…まあ関係がないならそれでいいんだ。仕事に戻りなさい」


そしてアヤが出て行ったのを確認して、また深く息を吐き出した。


「…(せめて、よく似たアヤが少しでもここで幸せでいられるように努めるか…)」

全ての事実を知るまでは、せめて。

なんの清算にもならないだろうが、それしかできない。



誰のための代償行為

(アヤ、)
(はい?)
(嫌がっていたが…うまくやれそうか?)
(…はい…私もいつまでも駄々をこねずにがんばりますよ)


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