視界がぼんやりする。
なんだか熱っぽくて、寒気がする。
おかしいなあ、冬島の海域は抜けたのに。
「(…風邪…?)」
それなら寝たら治るかな、と薄い毛布にくるまり船内に引きこもり瞼を降ろす。
「(いつ海軍に帰ろうかな…)」
火照ってだるい体を丸めながら、少しだけ浮かんだことを考えながら眠り込んだ。
***
「…ん…スモーカー…さん?」
「…お久しぶりです、アヤ部長」
ぱちぱち、と瞬くようにしてから目を開けると真っ白の天井と、仏頂面ながら心配そうな目を落としてくるスモーカーさん。
「なんでスモーカーさんが…?」
「近海を航海中に貴女が買ったという情報の船と良く似た小船を見つけたら、船内で気絶していたんですよ」
「…気絶…風邪のせいですね…」
情けないところを、と苦笑すると片手を強く握られた。
「…?スモーカー、さ…」
「なんでこんな真似をしたんだ…海軍、政府がお前を探してたんだぞ」
「……いろいろ、考えたいことがあったんです」
階級がまだ低いスモーカーさんには詳しいことは言えず、眉を下げて笑う。
そうすると汲み取ってくれたのか苦虫を噛んだような顔をして、手を離してくれた。
「…もうすぐ本部につく。大将たちが待ってるらしい」
「それが一番怖いです…」
怒られるかなあと、小さく息を吐き出した。
***
「…」
「…」
マリンフォードに帰港し、本部に戻るとすぐに赤犬さんたち三人がやってきた。
気まずい沈黙が痛くて、視線を床に落とすとぎゅうっと思い切り抱きしめられた。
怒られると思ってたからびっくりした。
「アヤ…良かったアヤ…心配したんだよ?」
「く、クザンさん…すみません…ただいま帰りました…」
「擦り傷だらけだし、また痩せちゃって…風邪もまだちゃんと治ってないんでしょ?しばらくは部屋で安静にしようね」
片手で抱き上げられ、大きな手で頬を撫でられる。
すると赤犬さんが低く唸った。
「クザン、あまり甘やかすな…アヤはやっちゃあならん真似をしたんじゃぞ」
「だからってこんなボロボロのアヤを怒れないでしょうが…ちゃんと帰ってきたし、アヤにもなにかしたいことがあったんでしょ」
「…貴様は甘いんじゃ」
「サカズキは厳しすぎるんだよ…アヤは繊細で悩み多き年頃なんだから、家出くらいしたい時もあるよ…そんなんじゃ嫌われるよ?」
「!…貴様…」
「まあまあ二人とも落ち着きなよォ〜…今はアヤちゃんを休ませてあげるのが先決だろォ〜?」
まだいつもより熱っぽいみたいだからね、と首に手を当ててくるボルサリーノさん。
自分でもほとんどわからないのに、よくわかるなあとびっくりした。
「アヤちゃん、とりあえずしばらくは部屋から出ちゃダメだよォ〜?しっかり食べて休んで、身体を戻さないとねェ〜…」
クザンさんの手から私の身体を引き剥がし抱き上げ、頭を撫でてくれる。
「おやァ〜…髪も傷んでるねェ〜…傷も沢山あるよォ〜…自分を大事にしないとダメじゃねェかァ 〜…」
「…ごめんなさい」
「…とりあえず、よくなるまでは部屋にいるんだよォ〜?センゴクさんには言っとくからねェ〜」
ぽんぽんと背中を撫でて言い聞かせられるように紡がれた言葉を拒絶するわけにもいかず、ただ頷いた。
鳥は籠の中に
(あんな痛々しい姿になっちゃって…一人旅なんか無茶するから)
(帰ってきたからよかったが…二度と知らんとこに勝手に飛び立たんように躾ねばな)
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