北風が窓に吹き付ける音を聞きながら、宿屋のベッドで丸くなり微睡む。
「(……少ししか見れてないけど…いろんな島がある…いろんな人がいた…)」
いろいろな人がいる分、いろいろな悲しみも見えた。
それらは海賊とか、赤犬さん曰くの悪によるものだけではない。
民間人、それだけでなく、民衆を守るべき政府側が与えたものもあった。
「(…完全に正しい組織なんて…きっとこの世界のどこにもないんだろうな…)」
間違いだらけの人間が組織を動かしている以上、間違いのない絶対的に悪な組織はないし、善な組織もない。
海賊も、革命軍も、海軍も、世界政府も変わらない。
誰かにとっては悪で、誰かにとっては正義で
また悪の中にも優しい人はいて、同じように正義に中には悪い人もいて、
私自身も、よく知っていたはずのこと。
「(……その中で、私は絶対的正義をどんな正義で貫いたらいいんだろう…)」
政府の役人として、一人の海兵として、一人の人間として。
私は何を正義と掲げよう。
「(…少なくとも…困ってる人や泣いてる人のことを考えてあげられる正義を持ちたいな…) 」
善も悪もなく、ただの一人の人として、誰かの支えや助けになりたい。
とぷん、と水に沈むように意識を手放した。
***
雪に太陽が照り返し、反射する。
隠すように止めた船のところに行くために、木々の間を縫うように歩く。
すると…
「…あら…?」
木々に覆われた森の開けた場所の真ん中、何か小さなものが倒れているのが見えた。
真っ白なはずの雪がじんわりと赤に染まっているのを見て慌ててかけよると、それは青い鼻をした子供のトナカイのような不思議な生き物だった。
あちこち傷だらけのまま一人倒れているあたり、仲間においていかれたのだろうか。
「トナカイさん、でいいのかな…?大丈夫だか…?」
跪き、小さな身体を抱き上げると、ぐったりした体は痩せて軽かった。
野生なのに、人間の私に抱き上げられてもぴくりともしないのは相当弱っていることを示している。
「…(手当てしかできないけど…)」
野生の子にあまり手を触れるのはよくないとわかっていたけれど、ひどく痛々しいその子の姿に、救急セットを開けた。
***
“素敵な青いお鼻のトナカイさん、元気になるべよ”
冷たい雪じゃない、あったけェ言葉が降ってきた気がして、うっすらと目を開けた。
でも、やっぱり誰もいない。夢だったのかな?
ふんわりと香った爽やかで甘い匂いも
暖かくて柔らかいもので体を包んでくれた。
青っ鼻の俺を褒めて、頭を優しい手で撫でてくれたのも
「(…夢でしか、なかったのかな…)」
そう思って少しだけ鼻をすすった時、自分の前足に何か薄緑の布が巻かれてるのが見えた。
その布からは、確かに夢と同じ匂いがした。
「!(夢じゃない…?一体誰が…!?)」
慌てて立ち上がって辺りを見渡すも、周囲には人の気配もない。
本当に誰かいたのかもわからない。
けど、自分の前足に巻かれた薄緑の布や身体に施された手当て、そして残された匂いは本物で、また涙が滲んだ。
「(…俺みたいなのに、優しくしてくれた奴がいた…)」
いつか今度は、夢じゃなくてこの世界で会えるかな?また俺のところにきてくれるかな?
「(いつか会えたら、この布を返してお礼を言うんだ。それで、また撫でて暖めてほしいや…)」
雪の降る日に願う
(っくしゅん……雪の中にいすぎたべな…)
(あのトナカイさん無事ならいいべ…)
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