「冬島は寒いべ…」


この島の海域に入ってからというもの、吐く息は常に真っ白。

防寒していても寒さ慣れしていない体は震えが止まらない。

それでも、ちらちらと舞い落ちては積もる、白い雲の破片のようなふわふわの雪を踏みしめて、見えてきた街に向かって歩いていく。

そんなきらきらと白く光る銀世界に埋れたこの国の名前は、ドラム王国だ。


***


「はぁ〜…あったまるべなぁ…」


寒さに耐えきれず、街について早々に食堂に入り、熱々のシチューを注文した。

クリーミーな喉越しが、じんわりと芯まで冷えた体を温めていく。

なんだか家出が半分くらい食レポ旅行になってる気もしないでもないけど、きっとそんなことないべな。

ちゃんと心の整理と自分探しもしてるだ。


「お嬢ちゃん見ない顔だね、観光かい?」

「そんなとこだべ…でも寒すぎてまだあんま見れてねぇだよー」

「はは、寒さが厳しい国だからね。ここは」

「住んでる皆さんはすげぇべなぁ」


声をかけてきてくれた他のお客さんたちと談笑をしていると、にわかに外が騒がしいのが聞こえた。

その騒ぎに笑っていたお客さんたちが渋い顔をし始めた。


「?なんだべ」

「ああ…お嬢ちゃんは知らないのか。この国一番のヤブ医者の仕業さ、あの騒ぎは」

「ヤブ医者…?」

「まあやつには関わらないのが一番さ」

「そうだべか…」


しかしそう言われたら会ってみたくなるのが私なわけで、残りのシチューを食べ切って、お代を置いて立ち上がる。


「…それじゃあ私はそろそろ行きます」

「そうかい?なら例のヤブ医者とラパーンに気をつけるんだよ」

「ああ、あと魔女にも会わない方がいい」

「魔女…?」

「別の医者だよ」

「海には、不老の魔女って呼ばれてる綺麗な女の形をした化け物がいるんだろう?それの友人でもある医者さ」

「へえ…忠告感謝するべ」


気になる話を色々と聞いたあと、食堂を出て、騒ぎのしていた方に足を向けた。


***


「(んー…もういないのかな…?)」


ざくざくと雪を踏みしめて、街外れの森の中を歩いていく

すると先の方に、黒い影が雪の上にうずくまっているのが見えた。

よく見ればそれは苦しそうにしている人。


「!大丈夫だべか…?」


ただ事ではなさそうだと近づいて隣に膝をついてしゃがみこみ、背に触れようとすれば片手で制された。


「はぁ…大丈夫だ…それよりお嬢ちゃんは、見ない顔だな…どこのもんだ?」

「私はアーニャ…ただの旅人だべ」

「旅人…そうか…俺はヒルルク…医者だ」


バッテン印のシルクハットを被ってそう言った男性に、この人がヤブ医者だと呼ばれてる人なんだろうなと確信めいた予感を覚えた。



根雪に覆われた国の中には

(でも、苦しそうだったけど大丈夫だか?)
(ああ、よくあることだから問題ないさ。それよりお嬢ちゃん、旅人ならサクラの木ってのを見たことあるか?)
(サクラ…?まあ、あるけんど…)
(本当か!?ならうちで是非その話を聞かせてくれ!)
(お、おう…わかったべ…?)


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