砂漠の国、アラバスタ。

政府加盟国だが、広大な国だ。見つかることもそうないだろう。

ネフェルタリ王家の王政だし、治安も信用できる。

そう思ってやって来たのに…


「(うう…手回しが早いべ…)」


港にも本部の軍艦が停泊していたし、街の中を歩く海兵さんも増えてきた。

先ほど通りすがった人の噂話を聞き集めれば、やっぱり海軍は私を探しているらしい。

まさか身内からこんなに身を隠して逃げ回る日がくるとは思わなんだ。

海賊さん達は、いつもこんなはらはら感を味わってるんだろうか。


「(…迷惑かけてるでしょうけど、まだもう少し、外を見たいんです)」


服とメイクを変えよう。この国に馴染むようにすれば、うまく国をぬけられるだろう。

そう決めてフードを深く被り直し、路地を歩く。


***


「おい…あの踊り子可愛くないか?」

「ん?…お、本当だ…あの格好、流れの踊り子か?」

「(…ばれてねぇ見てぇだべな)」


店でこの国の民族衣装だと勧められた服に着替え、メイクの雰囲気も変えて、マントを羽織り大通りを歩く。

露出と大半が透けた服に少し恥ずかしいとは思うが、情報伝達部長がこんな服を着てるとは誰も思っていないようで

通りすがる海兵さんたちも、私をただの踊り子としてしか見ない。


「(この分なら、切り抜けられそうだ)」


目線をやってくる人たちに、時折目線を返し、ウインクをして見せたりしながら船を止めてある場所に早足に向かう。


***


「(もうすぐ船のとこだべ…)」


隠すように停めたから気づかれてないとは思うけど不安は消えず、早足に歩く。

すると、大きな人にぶつかってしまった。


「あっ、すみませ…」

「見つけましたよ、アヤ部長」

「!」


そろっと見上げれば、ぶつかった人は海軍将校で、よく見覚えがあった。


「す、ステンレスさん…!」

「…訛りを使い、そのような不埒な格好をして…他の者の目はごまかせても、私の目はごまかせません」


さあ、帰りましょう。

そう言ってぐっと腕をひいてくる。

ああ、でもごめんなさい。まだ捕まりたくないんです。

だからこれからすることを許してくださいね、ステンレスさん。


「…わかりました…帰ります」

「わかれば…」

「でも、腕を離してください…ちょっと痛いですステンレスさん…」


うるりと瞳を潤ませて見上げ、自然に胸が当たるように体を押し付ける。

そうすればステンレスさんは顔を真っ赤にして手を離してくれた。


「も、申し訳ない…」

「いえ…こちらこそみなさんに迷惑をかけて…なにか謝礼ができたらいいんですが…」


すすっと手を体に這わせ、しなだれかかる。


「(しゃ、謝礼とはどのようなッ!?)お、お気になさらずとも…」

「ですが、ステンレスさん……ほんとに私…ごめんなさいッ」

「うぐぁっ!?」


這わせた手で、男の人の急所といわれてる場所を握りしめた。

ステンレスさんが将校なのに一撃で倒れたから、やっぱり支部にいた時の同期たちの話は本当だったんだ。

まさかここまでの弱点だとは思わなかったけど。男性はあんな弱点ぶらさげて不便なんですね…


「っ…っっ…!!」

「すみませんステンレスさん…潰してはいないので、しっかり急所の療養をしてください…」


声も出ないほど痛いらしいステンレスさんにぺこりと頭を下げてから、船のある場所に走った。


「(新たな追っ手がくるまえに次の島にいかないと…)」



砂漠の国で逃走、奔走

(でも弱点とはいえ、握りしめただけでまさかあんなに効くとは思わなかったべ…男性にしたら、相当大事なところなんだべなあ)

(い、言えない…!…あの踊り子の姿と、動作に油断した挙句、興奮してたとは…!!)
(しかし…思い切り握られるとは…うぐぅ…!)

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