「ふへぇ…ほんとに助かったべよ、クリケットさん」

「まさかアーニャみたいな嬢ちゃんが、腹減らして漂流してくるとは思わなかったがな」

「あはは…一気に横断するにはちょっと遠かったんだべ…」


恥ずかしくてぽりぽりと頬を掻く。

ウォーターセブン間とアラバスタ間は思っていたよりも距離があって食糧が底をつき

三日ほど何も食べなくても大丈夫かなと思ったら意識を失い、クリケットさんのお家のある岬まで船ごと流されてきたのだった。


「いやあ…ほんとどうなってたか…」

「まあ、街なら島の反対側にあるから、用意ができたら海岸沿いに行ってみな…ただ無法者の街だから気をつけろよ」


ぽんぽんと頭を撫でられると、本部から離れてから久しぶりにされて、少し懐かしくてあったかく感じた。


「ありがとうだべ…クリケットさん…」

「俺が付いて行ってやれたらいいんだがな…」

「んだけど、そんな無理してくんなくていいべ…こんな外れた場所に住んでるのもなんか理由あるんしょ?」

「…ああ、小さいのによく相手のこと考えてんだなぁ。将来いい女になるぜ」

「私そんなに小さくねぇべよ…でも嬉しいべ」


にっこりと笑いかえせば、また頭をなでられた。

やさしい人だ。

心温まる出会いを嬉しく思いながら、別れを惜しみつつ、その岬を後にし、教えられた町の方に向かった。


***


「んしょ…」


食料を買いこんだ荷物を持って歩く。

重たいけど、わりと大丈夫だ。

フードを深くかぶり、船をつけた岸辺に歩いていくと、私より大きな影がかかった。


「お嬢ちゃん一人か?」

「?…なんだべよ?」


見上げれば見知らぬ、柄の悪そうな人たち。

でも、海軍の人も見かけは柄が悪いし、人を見かけで判断しちゃいけないかなと、とりあえず応答した。


「こんなとこかわいい顔したお嬢ちゃんが一人で歩いてちゃあぶねぇよ〜?」

「大荷物だし、おじさんたちが送ってあげるか〜?」

「まあ…ご親切にありがとうだべ。でも一人で大丈夫だぁ」


嬉しい申し出だけど、迷惑をかけてはいけないから、とにっこりと笑い返せば、一人の男の人がいいからと腕を掴んできた。


「?大丈夫って言ってるべ…離してくんろ」

「大人の厚意は素直に受け取らねぇと」

「そうだよ。ほらお嬢ちゃんこっちおいで」

「っ…いいって…」

「ピィッ!」

「ぐあっ!?」

「!」


ぐいと体が引っ張られた瞬間、鳥の鳴き声。

そのあと男の人の悲鳴と共に手が離れた。

驚いて見れば、小鳥さんが男の人たちをつつきまわしている。

突然の不思議な光景に、思わずそのまま立ちすくむ。

諦めたらしい男の人たちはいなくなった。

地に降りた小鳥さんがチチチッ、と鳴いて私を見上げてくる。

不思議な輝きを放つ、ルビーのような赤い目が、早く行きなさいと言っている気がした。


「あ、ありがとうだべ…小鳥さん」

「ピルルッ」


答えるように鳴いて、小鳥さんはまた小さな羽根を広げて青々とした空に羽ばたいて姿を消した。


「…不思議なこともあるもんだべ…」


ただ、あのどこまでも深く赤い目は、どこか見覚えがある気がする。


「(気のせいかなあ…)」


引っかかりを覚えながら、早くこの島を出てしまうのが先決かなと、再び荷物を持ち直して歩みを進めた。



無法者の街

(ショウガン・アヤ…まったく…少し近くで様子をみるだけだったのに、あまりに危機感のないお馬鹿さんだから助けてしまいました)
(島を出ていく小舟を眺めながら、ルビーのような瞳の女が、海風に金糸の髪をゆらした)

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