「(船も買えたし、あとはこの辺りの海域の海図と、当面の食糧と必需品だべか)」
「アーニャ、買うもん決まったのか?詫びに俺も荷物持ちくらいしてやるから早く終わらせようぜ」
「あ、はい。だいたいリストにあげたさ」
まだ服が乾かないので、借りたつなぎのままパウリーさんといろんなお店のある中心街をゆく。
スカートだと散々文句を言われたけど、だぼだぼなつなぎは露出が少ないせいか、対応が普通になってくれた。
照れ屋さんなんだなあと、それで納得しておくことにする。
「とりあえず食糧の前に必需品が欲しいべ」
「そうか…ならあの店いくか」
「?あの店?」
「ついてくりゃわかる」
いくぞ、と手首を掴まれてひっぱられ、あんまり理解できてないまま、ついていく。
***
チリンチリン
「おーい婆さんいるか?」
「…パウリー、まだ私は婆さんなんて歳じゃないよ。おばさんって呼びな、せめて」
「どっちでもいいだろ?それより客連れてきてやったぜ」
童話の中のお家がそのまま飛び出してきたような不思議な空気を放つそこは雑貨屋のようで、中に入りパウリーさんが奥に呼びかけると
勝気な目をした、きっと若い頃は今よりもさらに美しかったんだろうと思われる、初老の女の人がでてきた。
最初はだるそうにしていたが、私と目が合うと、目を見開いた表情をした。
「…おや、客って女の子かい?珍しいねぇ、あんたが女の子連れて来るなんて」
「造船所の客だよ。色々迷惑かけてな」
「ああ、さっきの借金取りからの逃走劇かい?表通りの水路を小さい女の子が猛スピードで泳いでたって聞いたけど…なるほど、あんたかい」
なかなかガッツがあるじゃないか、と目を細めて笑われた。
「相変わらず早耳だな、婆さん」
「ふふ、私の母親がわりが外に広く耳を向けろって言ってたのさ…ところで、買い物だろ。何が欲しいんだい」
「あ、このリストのものが…」
「ほう、なるほどね。任せな。お代は結構かさむだろうが…まあ、あんたはいくらかかっても大丈夫かね」
「!」
「…金持ってそうだ」
一瞬、立場を当てられたのかとどきりとしたがどうやらそうではないらしい。
待ってなよ、とおばさんが奥に引っ込んだのを見て、息を吐き出した。
「…不思議な人だべな」
「あの婆さんは生い立ちも、いつからここにいるのかもよくわかんねぇが、信用はできる相手だぜ」
「…そうみてぇだべ。じゃなきゃパウリーさんがここに連れてきてくれねぇだろうしなぁ」
にっこりと笑ってそう返せば、パウリーさんは顔を真っ赤にしてそっぽを向いてしまった。
その行動にクエスチョンマークを浮かべていると、奥からおばさんが戻ってきた。
「とりあえずこれで全部だね」
「そうだべ」
「お代は1万5千ベリーだよ」
言われた代金を渡せば、雑貨品を紙袋に入れてくれた。
「それじゃまたおいでね」
「ありがとうごぜぇます」
紙袋を受け取り、背を向けようとすれば、腕を上げるがしっと掴まれ、耳元で囁かれる。
「……花の娘が困った時は、花が助けてくれるさ」
「!え…?」
「…よい旅路を」
にんまりと笑って、おばさんは私の腕を離すと奥にいってしまった。
しばしそこに立ち尽くすと、すでに店の出入り口にまでいたパウリーさんに呼ばれて慌てて後を追いかけるように外にでた。
***
「んだら、ありがとうごぜぇました」
翌日、しばらく分の生活に必要なものを担ぎ込み、買った船に乗り込んだ。
「ンマー、気をつけてな」
「んだべ、また機会があればこの街に戻ってくるさなぁ」
「じゃあその時はまた会いに来いよ」
「んだ。そうさせてもらうべ」
その時はきっとアヤとして会うだろうと心の中で付けたし、小さく笑って返す。
そして錨を上げて帆を貼り、エンジンをいれた。
少しずつ岸から沖へと動いて行く。
姿が見えなくなるまで、アイスバーグさん達は見送ってくれ
私の目からも島影が、徐々に小さく薄れて行く。
そして、カモメの飛ぶ空と波打つ海の青が交じる水平線に。
少し名残惜しかったけど、新たな針路を取らなければ。
「次は…アラバスタ、にすんべ」
アンダンテよりもやや早く
(…)
(…残念だったなパウリー、ようやくお前にも春が来そうだったってのに)
(!?なっ!そんなんじゃねぇっすよアイスバーグさん!!)
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