「綺麗な街だべなあ〜…ウォーターセブン!」
レンタルのヤガラさんに乗って、水に浮かぶように建つ街の水路を進む。
涼しげな白と青の街並み。有り余る海と水路を生かした生活。
昔は荒廃していたらしいが、海列車ができてから復興が進み、今ではその頃の面影もなく、人々は生き生きとしていた。
深く被ったフードを持ち上げて上を見れば、この街の象徴とも言える巨大な噴水が見えた。
青空の下、澄んだ水が溢れる姿は綺麗で、家出中とは言え、心が踊る。
すると、
「ニ〜ニ〜!」
「ん?どうしたべヤガラさん」
私を乗せてくれてるヤガラさんが声をあげたのを聞いて視線を戻せば、一つの屋台に反応したらしかった。
「水水肉…?あれが食べたいべか?」
「ニ〜!」
「ふふ、んだら買うべさ」
すっと手綱を引いて、屋台の方に寄せる。
「すみませーん、水水肉が二つ欲しいべ」
「はいよ!…っておや、お嬢ちゃん見ない顔だね。旅人さんかい?」
「ああ、まあ…そんなところだべ」
曖昧に笑って返しながら、お金を渡してお肉を貰う。
いい匂いだべなあ
「小さいのに一人で旅だなんて偉いねぇ。ご両親は?」
「田舎に母が一人いるす。けんど父は、ちっちぇ頃に死にたんだずよ」
「そうなのかい…若いのに苦労したんだねぇ。そうだ、もう一つ持っていきな」
ずい、と店主にもう一つお肉をさしだされた。
「も、申し訳ねぇすよォ」
「いいんだよ。随分な田舎から出て来たみたいだし、ウォーターセブンで楽しい思い出作っていきな」
「…んなら…甘ェさせてもらうべ。あんがとね」
店主の優しさをじんわりと感じつつ、受け取って再びヤガラさんを動かした。
***
もちゃっもちゃっ
人通りの少ない水路に入り、ヤガラさんと一緒に休憩がてら水水肉を食べる。
水水肉は名前の通り、噛むたびに口の中で水々しい音を立てて、病みつきになりそう。
「(この街は素敵な街だけど、長居はできないかなあ…)」
本部、それにエニエス・ロビーも近すぎる。
あまり長居すると、早々に捕まってしまいそうだ。
「一通り観光したらば…本部から少しでも離れる島に行く定期船を探さねと…」
ちゅっと塩気の残る指を舐めながら、次のことを考える。
すると、路地の曲がり角の方から騒がしい声が聞こえてきた。
「今日こそ金を返しやがれ!」
「今は金がねェんだよ!!」
「?」
不思議に思っていると、曲がり角からジャンパー姿の男の人と、スーツ姿の男の人たちが出て来た。
スーツに思わず身構えるが、どうやら政府の人ではなさそうだし、ジャンパー姿の人を追っているらしい。
「パウリーてめェ!いくら滞納してると思ってんだ!」
「来月には返す!!」
「その言い訳は聞き飽きたぜ!」
目の前のやりとりをきょとんとしたまま見つめていると、パウリーと呼ばれた人と目が合った。
瞬間、その人がいきなりこっちに飛び乗ってきて、私の手から手綱を奪った。
「借りるぜ嬢ちゃん!あとで返す!」
「え!?」
瞬間、ヤガラさんがいきなり動きだし、バランスがとれなかった身体が傾いた。
「!っきゃあ!!」
どぷんと、身体が水路に飲み込まれる。
「悪ィな!」
「っぷは!ちょ、待っ…」
慌てて水面に顔を出すものの、パウリーという人はヤガラに乗ったまま猛スピードで去っていく。
「っ…私の荷物もあるってぇのに…!!」
結構な家出資金が入ってるから無くすわけにはいかない。
まさかこんな大胆な盗みに会うとは思わなかったけど、ここが『水路』で移動する街で良かったと、息を深く吸う。
そしてもう一度水路に身体を沈め、両足で水を蹴って水路を泳ぎ、追うことにした。
水の都で思わぬ事案
(全く、悪い人は海賊だけでねぇで、どこにでもいんべか!)
(あの落ちた嬢ちゃん泳ぐのめっちゃ速ェ!!)
(なんか水路泳いでる子いるぞ!!)
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