「あ〜…おはようございまーす…」
「青雉…お前少しはきっちりできんのか」
「まァまァセンゴクさん〜…会議に時間通り来ただけでもマシとしときましょうよォ〜」
「そうっすよ。アヤが起こしにこなくて起きたんだから、俺にしては上々…あれ?俺馬鹿にされてる?」
「そんなことより…アヤはおどれを起こしに行っとらんのか?」
「え?ああ…来てないけど…そういやアヤいないね。まだ来てないの?」
珍しい、といつもなら既に、小さな可愛い少女がちょこんと座っているだろう空の席に青雉の目がいく。
「あの子が理由もなく遅いなんて珍しいねェ〜…」
「呼びにいかせるか…」
そうセンゴク元帥が口にした瞬間、三人の大柄な男が我先にと言わんばかりに立ち上がる。
またか、といったような空気に包まれる部屋。
「…ちょっとちょっと、俺いくからいいって。あんたらは座ってなよ」
「おどれこそ奇跡的に時間通り来たんじゃ、座っておけ。それにワシがアヤの後見人みたいなもんじゃけェ…ワシが様子を見に行くのが通りじゃろう」
「わっしが一番さっといけるから、わっしが行ってくるよォ〜…」
出し抜いて彼女の中の自分の株をあげたいだけだろう、と思うが誰も口には出さない。
誰もが懸命な判断をする中、センゴクが全員大人しく座れと叱りつけると、流石に三人も不満そうに席に座り直した。
それを見て溜息を吐き出す。
「全く…遣いを出せばいい話だろう。今誰か…」
「し、失礼します!」
センゴクの言葉を遮るように部屋の扉が勢いよく開けられ、一人の海兵が入ってきた。
似合わないヒールブーツ姿から、ヒールの靴が身につけ義務の情報伝達部の人間だとわかる。
基本的に伝達部の人間は穏やかか冷静だ。慌てたり声を荒げたりすることは滅多にないはずなのだが
入ってきた男は冷や汗を流し、顔を青ざめさせ、明らかに慌てていた。
それはこの男の上司である部長のアヤがきてないことと何か関係あるのかと、全員が身構える。
「どうした?」
「こ、これがアヤ部長の部屋に…!」
「?」
丁寧に折りたたまれたメモ用紙を手渡されたセンゴクがそれを開くと、表情が一気に変わった。
その姿にますます持ってただ事ではない、可愛い少女の身になにがと身を固くする。
「センゴク…どうした?アヤに何かあったのか?」
「……アヤが、家出をした…!」
ばんっと机に叩きつけられたメモ。そこには…
『身勝手なことをしてごめんなさい。しばらく一人で考えたいことがあるので、本部を留守にします。探さないでください。』
瞬間、思わぬ言葉にあっけにとられていた全員が、各々の個人的なことにだけでなく、政府、海軍にとっても重大な事態に
マリンフォード中に響き渡らん限りの悲鳴にも似た大声をあげた。
***
「(賑やかだべ…)」
しゃりっと赤く熟れた林檎を真っ白な齧りながら、先ほど辿りついたばかりの街の大通りを歩く。
正義のコートは置いてきたし、濡れた服は店で買い換えたばかり。
仕事の時のぱりっと見せるようないつもの化粧と仕方も変えて、甘めに見えるようにしてみたから遠目ですぐにはわからないだろう。
左の横髪の一房にもエクステをつけたし、名乗る名前もアヤ、じゃなくてアーニャに変えてみた。家出のための変装には十分だ。
「…今頃、会議の時間か……大騒ぎかな…」
やってはいけない、とんでもないことをやった自覚はある。
でも、しばらく離れたかった。
自分の役職の本質を知ってしまった時から、自分の正義どころか
政府や海軍の絶対的正義の意味もわからなくなって、汚さの上にあるのが見えた気がして飛び出してしまった。
正義とはなんなのか、私が護るべきもの、護っているのはなんなのか
それにようやく好きだと、大切だと思えた海軍をまた嫌いにして、嫌な自分へと、振り出しへと戻りたくなかったから
一人で世界を見て、考えたくなった。
「…どこば行くさね…」
子供染みた出奔劇
(とりあえず適当に行くべ。島とかいったことない場所はよくわがんねェし)
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