「…今回のドレスローザ、ひいては王下七武海のドンキホーテ・ドフラミンゴ氏の調査の報告は、以上です。元帥」

「うむ…新世界までの長旅、ご苦労だったショウガン伝達部長。しばらく休むといい。」

「いえ…ありがとうございます」


ドレスローザに一泊した後、本部へ帰ってきた私はセンゴクさんに監査の報告をした。


「…(結局、あの少女は一体…)」


『死にたくないでしょう?』

『真実は闇の中だろうがな』


「(…言わなければならないのに…)」

「…?どうした、浮かん顔をして」


無口で不思議な少女のことが頭によぎり、考えをめぐらしていれば、センゴクさんにばれてしまったらしい。


「…」

「…何か気になるなら言ってみなさい、アヤ」

「っ…」


名前で呼ぶのは甘えていいということ。

優しいセンゴクさんとの間の約束。

座っているセンゴクさんにぎゅう、と抱きつく。


「…ドレスローザでなにかあったか?」

「……ドフラミンゴさんのお屋敷で、少女に会いました」

「少女?…!(まさか…!)」

「私、それにひっかかっていて…数ヶ月前の事件の行方不明者ではないかと…」

「…それは、なにか疑惑の確証は掴んだのか?」

「…いえ、個人で調べていましたが、まだ疑惑の域を出ません…私の状況証拠からの憶測です」

「…なら、そのことはこれ以上調べなくていい」

「…え…?」


頭をなでられながら言われた言葉に、思わず顔をあげる。


「……お前がこれ以上どうにかする必要はない」

「っな、なんでですか…!?もしかしたら恐ろしい不正があるかもしれないのに…!」

「…そのお前の中にある憶測が正しいからこそ、手を引けと言っているんだ私は」

「!?」


なおさら何故と問おうとすれば、強く制するように名前を呼ばれた。


「アヤ…お前はいい子だ。この海軍に身をおいて、実に実直で素直に育った。

だがお前は、まだ理解できてない…お前の仕事の本質を」

「本質…?」


不明瞭な言葉に、思わず首をかしげる。


「お前の仕事は…情報伝達部長の仕事は、真実を暴き出すことじゃない。事実を把握しながら、世界や民衆が求める形の真実を作り出すことだ」

「…は…?」


苦々しく吐き出された言葉。一瞬、意味がわからなかった。


「…民衆や世界は、いつでも事実を求めているわけじゃない。自分が安堵するための真実を求めている。それを提供するのが、政府だ」


情報伝達部は、そのための組織とも言える。


「そんな…じゃあ大勢のために一人の少女の件は不都合だから、隠蔽しろと…!?」

「…そうだ。だからこれ以上、すでに片付けられた事に深入りをするな」


その非情ともとれる言葉とどこまでも真摯で厳しい目に、政府の中には私のまだ知らない影があるのだと気づいた。

強い光には、強い影がある。

それは当然のことかもしれないけれど、私には恐ろしかった。


「……それは…正義なんですか…?」

「…それも正義だ。民衆や世界のために必要な…お前が見た少女は、世界の安寧のために必要な犠牲だ」

「!…っ…犠牲…」

「…そうだ…だから、忘れるんだ。いいな?」


まだ、時ではない。

そう頭をなでてきたセンゴクさんに、複雑な感情を抱きながら頷く。

けれど、と少女を思いだし、言葉が零れ落ちる。


「……一人の犠牲も出さないで正義を徹することはできないんでしょうか…」

「…アヤ、綺麗事だけでこの仕事はできん」


その言葉に含まれた怖いほどの穢れに、ぱたぱたと音もなく涙が流れた。


夢見てた天使は、識る

(己の理想や夢などで護れるほど、世界は甘くない)
(お前も政府、海軍の幹部の自覚があるならば残酷だろうが、現実を捉えて大人になれ、アヤ)


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