「ただいま戻りました…」
「あ、おかえりアヤ。大丈夫…ってなに?!この痕!」
ぬぐいきれない様々な感情を抑え、軍艦に戻ればすぐに出迎えてくれたクザンさんが、私の首を見て細い目を見開き、大きな声をあげた。
その声に痕が残ってたのかと、慌てて首を抑えた。
「えっと…これは、なんでもないです」
「なんでもないわけないでしょうが。手の痕だよね?これ…ドフラミンゴになんかされたの?」
目の前にしゃがみこみ、首にあてた私の手を外して、ひどく心配そうな顔で首を撫でてくるクザンに申し訳なくなる。
「大丈夫ですよ。痛いわけじゃありませんし」
「もし触ってアヤが痛がったら殴り込みいくとこだよ」
「クザンさん…」
心配からくるものだとわかっていても、らしくない暴力的なセリフと怒りを秘めたような暗い目に、少し眉をハの字に下げれば頭を撫でられた。
「怖がらせたならごめんね。でも可愛いアヤが誰かに傷つけられるのも、俺にはすごく怖いのよ」
俺の腕の中に閉じ込めてでも、護ってあげたいから。
その言葉がどこまで本気かわからなかったけれど、大切に思ってくれているのは伝わってきて、思わず思い切り抱きついてしまった。
大丈夫なんて言ったけど、やっぱり首を絞められた瞬間、怖かった。
殺されるかもしれない、心からそう感じた。
あの息が一瞬詰まった感覚を思い出すだけで、体が震えだす。
こんなに弱くて、私はあの少女を助けられるんだろうか。
自分の中の正義を実行できるんだろうか。
死ぬほど怖いことばかり、これから先も起こるだろうに。
「っ、ごめんなさい私…私、ほんとに弱くて…無様ですね…みなさんと同じ、役職持ちなのに…死ぬ思いをした瞬間、怖くなりました…」
「アヤ…死ぬのが怖いのは当たり前。まだ若いんだし、アヤは子供なんだよ?だから焦らないでいいんだよ。それに大丈夫、俺がそばにいるから」
そのまま抱きかかえられ、あやすように背中を撫でてくれる大きな手に安心する。
背負っている荷が少し、軽くなるような気もした。
「…ありがとうございます、クザンさん…私、もっと頑張ります…ちゃんと、強くなります…」
「うん…まあでも今日は十分がんばったんだしさ…街で宿とって、美味しいものでも食べて元気だそう?」
「いいんですか…?」
「いいよいいよ。アヤ最近泳ぎたがってたし、プール付きの宿でもとろうか。気晴らしになるでしょ?」
にぃっと笑うクザンさんに、こういう気を回してくれる所がすごくかっこいいなあと思いながら、ふにゃりと笑い返した。
肩書き以上の荷の重み
(背負わせた荷の重さに震えるアヤが可哀想で、でもその姿も可愛いくて愛しいなんて、俺は悪い大人だよ)
(でも、代わりにアヤを傷つける全てからずっと護って、深く愛してあげるから)
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