出会った少女の年齢に不相応で物騒な言葉にも驚きだが、何より気になるのはこの少女のことだった。
立場上ドフラミンゴさんの仲間や屋敷の中に住む人間、ただの使用人にいたるまで把握してるはずだ。
でも、記憶を底からひっくり返してもこの少女のことを私は全く見つからない。
それはあってはならないこと。
しかしこの知らないという事実が、私には一つの予感を生んでいた。
「…」
「…ドレスローザの近隣に島がありましたね…何ヶ月か前、海賊に滅ぼされた」
「!…」
一瞬、私の出した話にぴくりと反応したのがわかった。
嫌な予感が確信に変わりだしたが、少女は何も言ってはくれない。
「お願いです。何かあるなら話して下さい。もしかして貴女は…」
「なんだっていうんだ、アヤ部長?」
「?!」
居る筈のない存在の声に後ろを振り向こうとしたが、その姿を認識する前に首を掴まれ宙づりにされる。
殺す気はない力とはいえ、痛く苦しい。
「っがは…っど、ふら…さ…」
「フルール、俺は部長殿と話しがある…部屋に戻っていろ」
「…はい」
ドフラミンゴさんの言葉に少女は城の奥へと消えて行き、完全に姿が見えなくなると私は花畑の中へと落とされた。
息が圧迫されていた喉に一気に入り込み、苦しさに噎せる。
「ぐっ?!っごほっ!ごほっ!!」
「フッフッフッ、大丈夫かアヤ?」
「っドフ、ラミン、ゴさん…どういうことですか…」
「なんの話だ?」
「あの子の…今の少女のことです…!私は何も…」
「『あの子』?何の話かわからねェな。日差しにでもやられたか?」
「すっとぼけないでください!!貴方も行き過ぎたことをしたことを隠しているのならただでは…!」
「ただでは……なんだ?」
「!っ…それは…」
ドフラミンゴさんの覇気が身体にのしかかり言葉がつまって出てこない。
怖さには海軍で慣れてるから気をやることはないとはいえ、覇王色は体が重い。
「く、ぅっ…」
「…フッフッフッ…仕事熱心なのは感心するが必要以上の詮索はしない方がいい」
「っ…」
「まぁ何かを突き止めたとしてもどうせ全ては闇の中だ」
「!…どういう意味ですか…?」
「フッフッフッ……気になるなら後は飼い主たちにでも聞くがいいさ」
散歩の帰り口はあっちだ。
馬鹿にしたように言って、彼は笑いながら少女が消えた屋敷の奥へと歩き出す。
「っ話しはまだおわってません!!あの少女が何者か答えねェべか ドンキホーテ・ドフラミンゴォ!!」
予感と確信の間で揺れる探していた届きそうな真相と、
それがけして私には手が届かない高い壁の向こうにある感覚に思わず久しぶりの怒鳴り声をあげる。
しかしそんな私の声など無視し、彼もまた少女の様に屋敷の中へと姿を消し、美しい花の中に私は一人残された。
今すぐ追って話しを聞かなきゃいけないと思うのに、彼の言葉が繰り返し再生されて足が動かない。
『全ては闇の中だろうがな』
「(あれは…裁かれない自信があるとでも…?)」
悔しさと無力さに唇を切れるほどに噛み締めて、締められた感覚の残る首をなぞった。
Under the rose
(沈黙の神様、許されない秘密ならば暴かせて)
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