ゆっくりと重い瞼を持ち上げると、窓から差し込む光は薄明るいようで、まだ起きるには少し早いようだった。
しかし起きてしまおうと、少し気だるさの残る体を持ち上げようとしたが、背中から伝わる低めの温もりとゆるく回された長く逞しい腕がそれをさせてくれない。
「…クザンさん」
起こすのを申し訳ないと思いながら、隣でぐっすり寝ている、今回の私の遠征任務の付き添いをしてくれた人の名前を呼んで、ぽんぽんと腕をたたいた。
すると私よりもずっと眠たそうな緩慢な動作で、クザンさんがアイマスクを持ち上げた。
「んん…なに?どうしたのアヤ…」
「朝早くにすみません…ちょっと腕を外して欲しくて…」
「…まだ寝てていいんじゃない?つくまで時間あるでしょ…」
「そうですけど…シャワー浴びたいし喉も乾いてて…」
「あー…なるほどね…」
昨夜もした二人だけの秘密である行為のこともあり、全て理解してくれたらしくクザンさんも腕をどけて体を起こしてくれた。
「水持ってくるからさ、シャワー浴びといていいよ」
「すみません…まだ寝ててくださって構わないのに…」
「気にしないで。アヤのためだしさ(無理させたの俺だし)」
軽く頭を撫でてクザンさんが部屋を出て行ったのを見ながら、私もベッドを降りてシャワールームに向かった。
***
「はい、水だよ」
「ありがとうございます…」
シャワーから上がり、部屋に戻るとクザンさんが水差しとコップを持って戻ってきていた。
膝の上に座らせられてからコップを受け取り、喉を潤して一息をつく。
「喉とか痛くない?平気?」
「大丈夫です…」
心配そうに首元を撫でてくる指をくすぐったく思いながら笑い返せば、それならよかったと頭を撫でられた。
「でも、やっぱり唇にキスさせてくれないんだ」
「?唇のキスは1番大好きな一人とするものだと母から昔から言われてて…」
ヴェルゴさんと付き合っていることは周りには秘密なので濁しながら事実を言えば、少し残念そうにため息を吐かれた。
「(キス以上のこと俺としてるんだけどね…まあアヤにはわかんないか…)…アヤの1番はまだ俺じゃないのね」
「(まだ…?)…でも、好きですよ?」
「うん、それは知ってるよ。アヤはそういう子だし」
見上げれば額や、瞼に優しくキスが落とされる。
でも私の意見を尊重してくれるこの人はやっぱり唇にはしたりしない。
だから信用して、身を安心して預けてられるのかも。
「…アヤが俺を好きなら、それでいいかな(今は)」
「?」
いまいちぴんとこない言葉に首を傾げれば、小さく笑われた。
「まあ今はそれより朝食かな?さっき厨房に頼んできたからそろそろ届くと思うよ」
「!ほんとですか?ありがとうございます」
「パンでよかった?」
「はい!」
お腹がすきだしていたから気遣いが嬉しくてにっこりと笑えば、可愛いと言われてまたキスをされた。
「…そうだ、ドレスローザの視察が終わったら、少し街でデートして帰ろうか」
「ふふ、クザンさんモテるのに私でいいんですか?」
「アヤとデートしたいからいいの」
こういう女の子が喜びそうなセリフをさらりといえるから、この人はモテるのかなあと思いながら
断る理由もないので、いいですよと頷いた。
航路を行く
(アヤ、ドフラミンゴには気をつけてね)
(わかってます。危ない方ですから…)
(それならいいんだけどさ…アヤは純粋だから、正直心配)
(大丈夫です。いきなり殺されたりしないと思いますから、なんとかなりますよ)
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