「おお!アヤ部長は若いのに話が分かる!」
「うふふ…そうですか?」
「…アヤ、くるならくるといえ」
「!あ、ルッチさん…!」
あの野良犬が馬鹿な真似をして数日後、またアヤはエニエス・ロビーにきた。
正確には黙って出てきたらしく、到着ギリギリで海軍本部から随分と荒れた連絡がきた。
『アヤを次に泣かせたらわかってるな』
その脅しとしかとれねェ連絡を半ば無理矢理切り迎えに行けば、裁判所でバスカビル裁判長と立ち話をしていた。
溜息を吐きだし声をかければ、悪戯がばれたペットのような動揺した顔をした。
「連絡もいれずお前に来られては困る。海軍本部から連絡がきたぞ」
「あら…案外すぐばれちゃいましたね…ちょっとでてきただけでしたのに」
「お前は…少しは自分の地位と身柄の価値を自覚したほうがいい」
「ごめんなさい…でもジャブラさんにお詫びをしたくて」
この前機嫌を損ねることをしてしまいましたから。
申し訳なさげな顔で、腕に抱えていた木箱を撫でるアヤに
本当に変わり者の上官だと改めて思う。
人道、道徳心、気遣い、慈悲、慈愛。
そんなか弱で不確かなものに重点を置く姿は、およそ海軍ひいては政府の上層部には相応しくはなく、生きにくい性質でしかない。
何も知らされていないゆえか…いや少なからず薄暗い部分を知りながらこれなのだから、その上で変わり者だろう、アヤは。
「…あの野良犬が悪い。お前が気にかける必要はねェ」
「…そうだとしても、私に配慮が足りなかったのは事実ですから…でも、本部から連絡がきたならもう帰らなきゃいけませんね…渡したかったんですが…」
残念そうに腕の中の木箱にアヤが目を落とした時
例の馬鹿が扉からとびこんできた。
「アヤ…!」
「!ジャブラさん…!っあ、あの、この前はその…お詫びのお酒です!」
近づいてきた野良犬にむかって、謝罪と共に手にしていた木箱を差し出すのを黙って見ていると、野良犬は目を見開いた。
予想外だったんだろうな、こいつも。
「…お前が俺に謝る必要ねェよ」
「でも…私、なにかしたんじゃないかと気になってしまって…」
「…あー……ちげぇんだよ。ただの…八つ当たりだ。悪かったな」
「…もう怒ってません?」
「ああ、怒ってねぇよ馬鹿娘」
がしがしとアヤの髪を乱暴になでる野良犬と
それに対して、ひどく安心したように嬉しそうに笑ったアヤの姿に
らしくもない安堵と、じわじわとする妙な苛立ちを覚えた。
そんな俺の精神もまた例に漏れず、アヤというぬるま湯のような存在に脅かされているのかもしれない。
「…(これが真性の人たらしという奴か)」
温い心は常に適温
(温い癖に俺の上に立っていても、嫌な気にならねェのが恐ろしいな)
back