てけてけ

後ろから軽い足音がついてくる

「…」

「おかえりなさい、ジャブラさん!またもふもふさせてください!」


ちらりと振り返れば、アヤがいつもの人懐こい笑みで近づいてきた。

普段ならばすぐにでも部屋に連れてって、それくらいいくらでもさせてやるが

数日前に、こいつの最後の肉親を殺してきたばかりの手で、こいつに触れる気にはどうにもまだなれなかった。


「(俺らしくねぇ…)…今日は眠てぇから却下だ」

「?いつも、寝ててもさせてくれるじゃないですか」


寝るなら静かにしてますから、と自然な動作で服の裾を掴んできたアヤの手。

洗ったとはいえ、母親の返り血がついた俺の服に触れた手が穢れる気がして思わず、アヤの手を払った。


「近づくんじゃねえ!!」

「!」


威嚇するように反射的にあげた大声に、びくりとアヤの肩が跳ねた。

しまった。やべえ。

そう思った時には、茫然とし、酷く傷ついた顔で俺を見つめるアヤの目には涙がたまっていた。


「ふぇ…ご…ごめん、なさい…」

「い、いや…」

「し、仕事いつも大変ですもんね…すみません…今日はもう、帰ります…!」

「!まっ…」


待て、という前に逃げ去るアヤの背中を見つめることしかできなかった。


「…くそ…っ」

「…何をしてるんだジャブラ」

「アヤに怒鳴りつけるなんて…最低ね」

「ちゃぱぱージャブラがアヤに怒鳴ったの見てしまったぞー」

「Σ」


嫌な奴らに見つかったと思う。

盛大な罵倒を食らうのは目に見えている。

始めて、自分の仕事に舌打ちをしたくなった。



謝罪も言えない

(っく…ぐす…)
(!アヤ、どうしたんじゃ…!?)
(!あらら…んなに泣いてどしたの?)
(誰に泣かされたのかねぇ〜?)
(う…っじゃ、ジャブラさんが…機嫌悪かったみたいで…振り払われて…ちょっと…怒鳴られ、まして…)
((((狼狩りだ))))


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