「珍しいですね」
「…なにがかしら?」
「ルッチさんも、ジャブラさんも二人して任務以外でいないなんて」
休暇の日に、ルッチさんとジャブラさんの二人をもふもふして癒されたいと思い立ちやってきたエニエス・ロビー。
しかし珍しく二人はおらず、カリファさんとお茶会をすることに。
「ここはずっと昼だから、たまには出かけないと体内時計がおかしくなるんじゃないかしら?動物だから(知らないけど)」
「なるほど…大変ですね、悪魔の実は」
「その分強くなれるけれどね…でもアヤには不必要かしら?」
「んん…弱いから必要なのかもしれませんが、海を泳げなくなるのは嫌なので食べたくはありませんね」
カリファさんのいたずらっぽい笑顔に曖昧に返し、アールグレイを練り混ぜたパウンドケーキを頬張る。
ほのかに香る茶葉の匂いと、甘い生地の味が絶妙でほおが緩む。
するとカリファさんに笑われた。
その笑顔が大人っぽくて、同い年とは思えない。
「アヤったら本当にわかりやすいわね。暗殺者にはなれそうにもないわ。狙撃の腕だけなら十分素敵なスナイパーになれるのに」
「えへへ…そんな…私には皆さんのようにお仕事をこなすことはできませんよ」
彼女は親御さんもCP9だった、殺しのサラブレッド。
お世辞で腕を褒めたりしないだろう彼女に褒められて、悪い気はしないけれど
根本的に人を殺す行為を全面肯定できない私は、到底同じステージには立てないと思う。
「(暗殺以外の仕事とか考えたことはないのかな…?)」
いつか政府から、仄暗い影の部分が消えたなら、ここの人たちはどうするのだろう。
消える日がくるのかもわからないけれど、その時は全く別の仕事を選んだらいいなあと切に願いながらお茶を飲み干した。
その時、子電々虫が鳴った。
「あら…もしもし?こちらアヤです」
『ああ、姐さんか?』
「まあ…戦桃丸さんお久しぶりです」
聞こえてきた声は予想と違って目をぱちくりさせる。
「どうかなさいましたか?ボルサリーノさんの子電々虫からじゃ…」
『おじきがずっと黒電々虫に話しかけて繋がらないから代わりにな』
「なるほど…またですか」
あの人はいつになったら違いを忘れずにいてくれるのか。
少しだけため息を吐き出して、用件を問う。
『姐さんに、科学部隊から渡したいものがある』
「私に?」
『ああ、返ってこれるか?』
「ええ、まあ…エニエス・ロビーですからすぐに戻れますが」
『なら早く帰ってきてくれ』
「はい、お待ちになっていてください」
そして受話器を戻し、立ち上がる。
「ごめんなさいカリファさん。本部に戻る用事が出来てしまいました。もう少しゆっくりしたかったんですが…」
「仕方ないわ。情報伝達部は多忙だもの…またお茶を一緒に飲みましょう?」
「はい、是非」
そして挨拶もそこそこにエニエス・ロビーを後にし、本部へと帰港した
***
「姐さん、あんた用の新しい武器だ」
「よかったねェ〜アヤちゃん」
「…これ、ライフル…ですか…?」
差し出されたのは私の身の丈よりすこし大きい、鈍く光りを放つ美しいライフル。
重そうだったが、腕にずっしりと来るものの、見た目より軽く、扱えないことはなさそうだった。
「軽くて丈夫な金属を主に、銃口部分には海楼石を仕込んでるらしいぜ…パンク野郎たちが腕のいい姐さんに使って欲しいってな」
「……なるほど…」
「名前は『アフリクシオン』だ」
アフリクシオン、と呼ばれた手の中のライフルは皮肉にも名前に相応しいように思えた。
銃身をなでた時、もう一つ手渡されたいくつかの銃弾の小箱。
「こっちは特殊弾らしい。種類が箱の中身で違うから気をつけろ、だとよ」
「わかりました…戦桃丸さん、私はあまり戦闘はしませんから、うまく使いこなせるかわかりませんが…使わせていただきます、とDr.ベガパンクさんたちにはお伝えください」
「了解だ」
重々しい武器に目を落としていれば、武器ごと黄猿さんに抱き上げられた。
「アヤちゃん専用の武器もらえたから、ますます仕事がはかどるねェ」
「私は戦闘メインではないんですが…」
人を殺すための道具をもらって、手放しで目を輝かせることもどうにもできず
苦笑気味に返し、鏡のように反射した銃身の中に写る自分を見つめる。
「…(私も、影を担う一人だべか)」
光の裏の影を知り、それをひた隠して光に立つ。
世界にそれが必要なら仕方ないとどこかで思おうとしてる私は、影にのまれそうなのかもしれない。
「(でも、私は私の中の正しいことを忘れたりなんかしない…!)」
影に心までは染めたりしない。
そう心に言い聞かせて、銃身を強く握りしめた。
嘆きを弾く
(…アヤちゃんは自分の首を締めるのが好きだねェ〜…)
(?なにかいいました?)
(おォ〜…なんでもないよォ〜)
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