朝焼けの空に、ゼファー先生の低い声が響く。
穏やかでしっかりした声は耳に優しくて、疲れた身体に染みていく。
意識が自然と重たくなり、眠くなって思わず横のゼファー先生にもたれかかる。
すると、歌が途切れるように止んだ。
「疲れたのか、アヤ?」
「いえ、ただゼファー先生の歌声が気持ち良くてつい…」
撫でてくれる手にすりすりと体を寄せる。
あったかくて、安心した。
「おいおい…海導を最後まで歌えないお前のために教えてるんだぞ?」
「わかってます、ごめんなさい…でも、別に歌詞は覚えてますよ」
私の問題は教えられてどうなるってものじゃ…と少し拗ねると
仕方ないやつだ、と頭を撫でられた。
「泣いて弔いもできねぇんじゃ、逝ったやつらも浮かばれねぇぞ」
「……」
「……海導は、嫌いか?」
ゼファー先生の言葉に、違いますと首を横に振る。
「怖くて、悲しいのかもしれません…」
死んでゆく海兵を讃える歌。
好きでも嫌いでもなく、ただ怖くて、悲しくて…その結果いつも泣いてしまう。
だから最後まで歌いきれない。
「やっぱり弱いですね、私は」
「…そうだな。だから強くなれ、こんなんじゃあ俺が殉職してもお前は泣きそうだ」
「…ゼファー先生は強いから大丈夫ですもん」
「人間いつ死ぬかわからねェさ。特に海軍はな」
私より遥かに沢山の死や別れを見てきたゼファー先生の言葉は重たくて、真実味を帯びていた。
「……先生が死んでしまう時までには、最後まで歌えるようになります」
「ならまだ俺が死ぬのは随分と先になりそうだ」
頭をなでてくれるこの手を失うくらいなら、ずっと歌えないままでいいなんて
子供じみたことを思った。
仔鴎の鎮魂歌
(アヤは海軍にくるべきじゃなかった)
(幼い少女に惚れこみ、引き摺り込んだ自分の元生徒に頭痛がした)
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