肌が、真新しい化粧品たちで薄く覆われて行く
なんだか慣れない感覚にももぞもぞとする。
「あの、おつるさん…やっぱり…」
「ダメだよ。いい歳なんだから、そろそろ化粧はしな。いい機会だよ」
「そういうものでしょうか…」
与えられたばかりの、明らかに高級そうな化粧道具たちに視線をやって、こうなる前の出来事を思い出した。
***
「アヤ、今日はお前に関する議題がまだ残っている」
今朝の定例会議の終わり頃に、センゴクさんの呼ぶ声に書類に向けていた目線をあげれば、皆さんがそわそわしていた。
不思議に思いつつセンゴクさんに近づく。
「なんでしょう?」
「…これをやろう」
膝の上におかれたのは、丁寧に包装された大きめな白い箱。
マリンブルーのリボンが可愛かった。
「?これは…」
「わっしら上層部からの17の誕生祝いだよォ〜」
海軍上層部の可愛いお姫様だからねェ。
その言葉に驚きと同時に嬉しさと照れがこみあがる。
「っ…あ、ありがとうございます…開けていいですか?」
「そのためのものだからね」
そして促されるままにリボンを解いて箱を開けた。
すると中には、白いレザー製の少しだけ大人っぽい化粧道具箱が入っていた。
その蓋を開ければ真新しい綺麗な化粧道具がきっちりと詰まっていた。
デザインなんかがなんとなくばらついているのは多分、皆さんがそれぞれのセンスで買ってきたからだろう。
でもそんなこと気にならないくらい、皆さんの気持ちが嬉しかった。
「すごい綺麗です…!皆さんありがとうございます!」
ぎゅうっと胸に箱を抱きしめて笑えば、センゴクさんが不器用にでも頭を撫でてくれた。
「アヤ、お前も大人に近づく歳だからな…化粧の一つでも覚えるといい」
「は、はい!」
化粧はしたことはないけど、皆さんの好意を無駄にはしたくなくて頷いたら
おつるさんが、早速教えてくれることになり、冒頭に至った。
***
「さあ、できたよ」
明るく上品なゴールドのアイシャドウがのせられた瞼。
深海みたいなダークブルーのマスカラであげられた睫毛。
さくらんぼみたいな甘い色のレッドの口紅に形どられた唇。
鏡に映る私は、本当に私なんだろうか。
「お前さんは肌が白いから、色がよく映えるね」
「なんだか恥ずかしいですね…違和感もありますし…」
手鏡の中の見慣れない自分をまじまじと見つめていると、おつるさんに笑われた。
「していけば見慣れるよ」
「そういうものですか…でもとっても煌びやか…母がむかし、化粧は大人の女の戦装束といっていた意味が、なんとなくわかる気がします」
『化粧は大人の女が日々戦うための必需品よ。だからどんな女もね、大切な日には誰よりも強くあるために念入りに化粧をするの』
小さな頃、どんなに体調が悪くても大切な日にはかかさずに化粧をしていた母に聞いたとき、かえってきた言葉。
あの時はよくわからなかったけど、この煌びやかに飾られた自分を感じて、初めてわかった気がする。
「(…たしかに自信や勇気が湧いてくる気がする)」
田舎くさい垢抜けない私でも、誰にも負けないようなそんな気分。
それに、私の戦装束は多分お母さんより特別なんだもの。
「(だって皆さんの愛情や優しさがいっぱい詰まってる代物だから)」
だからこんなにも、心強さと安心を感じるんだべな。
…大切にされたり構われることになれてない分、気恥ずかしさもあるけど。
化粧は強い女のために
(おつるさーん、アヤの化粧おわっ……!!)
(!ッ…)
(おォ〜…いつも以上に華やかで綺麗だねェ〜…)
(あ、皆さん…)
(…あんたたち、女の化粧中に勝手に入るんじゃないよ、全く…(面倒な子たちに愛されちまったもんだね、アヤは))
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