「きゃっ!」
「おやぁ、失礼アヤ殿」
マリージョアの廊下を急ぎ足で歩いていれば、前からきた人がいきなり出した足に躓いて倒れた。
痛みをこらえて見上げればCP5の主官であるスパンダムさん。
今は七武海の話などで忙しいのに、厄介な人に捕まってしまったと内心息を吐き出した。
「…あぶないので、足は出さないで欲しいんですが」
「あぁ?最弱といえど一応海軍将校なら貴女がよけてくださいよ」
「っ……」
わざとひっかけられたのはわかってはいるが、スパンダムさんの言葉も事実で口をつぐんだ。
私は弱い。武力の必要な地位ではないとはいえ、まだまだ弱すぎる。
だから、スパンダムさんのように私をよく思わない人がいて当然なのだろう。
「…忠告通り精進します」
埃を払いながら立ち上がって頭を下げれば、スパンダムさんは舌打ちをした。
そんなスパンダムさんを見上げながら、そういえばとこの前の件を思い出した。
「スパンダムさん、この前の…『プルトン』の件はよろしくお願いしますね。貴方に一任されてるんですから」
「…そう何度も言われなくてもわかってますよ。さっさと奪い取ってくりゃいいんでしょう?」
「あまり手荒な真似は勧めませんが…」
古代兵器『プルトン』の件は、デリケートな事だ。
なにより持っているとスパンダムさんが考えている人は、大海賊時代を開いたゴール・D・ロジャーの船を作った元犯罪者とはいえ、ただの民間人なのだ。
そもそも大海賊となった人の船を作っただけでも犯罪になるなんて、厳しすぎると思う。
だから海列車という画期的なものを作って、無罪になってくれて本当によかった。
でも新たな、『プルトン』の設計図を持っている疑惑が生まれた。
彼の人が努力の上で取り戻した日常を、また壊しに行くのだ。
政府のために必要とはいえ、それを忘れてはならない。
「…できるだけ人道的にお願いしますよ」
「…けっ、小うるせェ…あんたにそこまで口出す権利はないでしょうよ。俺に一任されてんだ」
そう吐き捨て、彼は機嫌悪そうに去っていった。
権力や地位の意識も強い人だ。
ぽっと出の小娘だろう私が自分より上にいるのも気に食ってないんだなとよくわかる。
「(あれだけ嫌われてると、いっそ清々しいべ)」
気持ちのいい話ではないはずなんだけども、あれだけはっきりしてるともうなんだか、気にならない。
「(さて、次の仕事に行かなくちゃ)」
次はせめてスパンダムさんの足を避けられるようにしよう。
そう決めて私はまた仕事のために廊下を走り出した。
無関心よりも
(世界は人を思わないから、せめて人が人を思わねば)
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